寿司の道具
寿司ロボット
回転寿司のシャリは、だれが握っているのか。職人の手のかわりにシャリ玉をこしらえる機械は、寿司とは縁のなかった菓子の機械メーカーから生まれました。握りの手触りを、機械はどうやってまねたのか。
菓子の機械屋が握る
握りのシャリを、機械が握る。その1号機が世に出たのは、昭和56年(1981)10月のことです。作ったのは寿司屋ではなく、クリームやアイスクリームを詰める機械、最中に餡を詰める機械を手がけてきた菓子の機械のメーカー、鈴茂器工。売り出したときの名前は「江戸前寿司自動にぎり機」。型番はST-77でした。
きっかけは、米への危機感でした。1970年代の減反政策をテレビで見た創業者の鈴木喜作は、米を食べる文化がないがしろにされていると憂えた。機械の技術で、米の消費を増やせないか。目をつけたのが、当時は高嶺の花だった寿司です。職人の握りを機械にできれば、寿司はもっと身近になる。
団子みたいだ
職人の目は厳しかった。最初の試作機は、シャリ玉の型に酢飯を詰めるだけの仕組みで、助言を頼んだ寿司職人には「団子みたいだ」と突き返されます。食感は押し寿司そのもの。次の試作機は、1貫分のシャリを2枚の金属で挟む形にしましたが、それでも「まだ固い」。そこで出てきた助言が、人の掌の弾力をまねてみては、というものでした。シャリに触れる金属に、スポンジのような弾力のあるウレタン系のゴムを貼る。これで、原型になる試作機が1981年の夏に仕上がりました。
目指したのは、握りの極意そのものです。つまんでも崩れず、口に入れるとほろりとほどける。そのために、計量の仕掛けでシャリを決まった量に分け、ベルトコンベアで送りながら、縦と横、上と下の二段に分けて押し固める。二段に分けるのは、シャリを傷めないためです。速さは、1号機で1時間に1,200貫。
ロボットと呼ばれて
「寿司ロボット」という名前は、発売の翌年、1982年に生まれました。テレビの番組でこの機械を操作したアナウンサーが、まさにロボットだ、と感想をもらした。その一言をもとに、創業者の鈴木喜作が「寿司ロボット」と名づけます。名づけた7月3日は、いまでは「寿司ロボットの日」です。
1時間に1,200貫というシャリ玉は、安い握りを支え、回転寿司を広げる力になりました。売り出してみると、注文は既存の寿司屋からだけでなく、飲食業の経験がない会社や個人からも来た。それで、寿司屋を開くのに要る設備をひと揃いで売ることまで手がけています。同じころ寿司ロボットを作る会社はほかにもありましたが、どこも小さく、やがて手を引きました。令和3年(2021)、ST-77は日本機械学会の機械遺産、第107号に認定されています。
お櫃の中の機械
ロボットにも、寿司屋らしい悩みがありました。目の前でロボットを見せられては客が興ざめだ、という店主の声です。そこで1999年に出たのが、見た目はお櫃そのもののロボット。中に機械を詰め込み、出てきたシャリ玉を取って、わさびをつけ、タネをのせて形を整えれば握りになります。いま回転寿司やスーパーでいちばん出回っている小型のシャリ玉ロボットは、酢飯に触れる部品が青い。青い食べものは無いから、万一かけらが混じってもすぐ目に付く。小さなところまで、寿司を出す現場を見て作られています。
次に読みたくなる
ほかの寿司ばなし
- 落語目黒のさんま
- 江戸の川柳女房を質に入れても初鰹
- 街道鯖街道
- 平家物語清盛と鱸
- 随筆握り寿司の名人
- 江戸城の台所将軍の膳に出さない魚
- ことわざ秋刀魚が出ると按摩が引っ込む
- 近代握りが全国の寿司になるまで
- 数え方寿司はなぜ「貫」と数えるのか
- 字寿司・鮨・鮓、三つの字
- 世界寿司が海を渡るまで
- ことば寿司ダネと寿司ネタ、何が違う?
- 薬味わさびが握りに入るまで
- 江戸前の海浅草海苔は、浅草でとれたのか
- 店のつくり寿司屋にカウンターが多いわけ
- 浪曲寿司を食いねぇ
- 土地の寿司消えかけの巻き寿司
- 記念日11月1日は寿司の日
- 秋田雷の魚のハタハタ寿し
- 山梨海なし県の寿司屋
- ことば寿司の「ネタ」が、話の「ネタ」になるまで
- ことば寿司屋の符丁、客が使ってもいい言葉
- 言葉寿司ダネと寿司ネタ、英語になったのはどっち
- 大阪回転寿司の始まり
- 歴史なれずしから握りまで
- 寿司の酢赤酢
- 寿司の醤油寿司の醤油は、どこで生まれたか
- 言葉「すし」という言葉の生まれ
- 俳句寿司は夏の季語
- 寿司の歴史江戸の寿司の値段
- 寿司の歴史出前と寿司桶、折詰
- 浮世絵浮世絵の中の寿司
- ことば「すし詰め」の始まり
- 道具バランは葉蘭
- ことば寿司ダネと寿司ネタ、タネ明かしとネタばれ
- ことば寿司ネタは逆さ言葉、ドヤやショバの仲間
- 寿司の歴史駅弁になった寿司
- 寿司の歴史寿司と氷・冷蔵庫
- ことばネタケースかタネケースか、現場の寿司ダネと寿司ネタ
- 店のつくり寿司屋の暖簾
- 寿司の米シャリの米
- 寿司の道具寿司屋の包丁
- 近代外国人が見た寿司
- 富山寿司といえば、富山
- 小樽小樽の寿司屋通り
- 静岡しずまえ
- 宮城塩竈の寿司
- ことば小説の中の寿司ダネと寿司ネタ
- ことばシャリか、酢飯か、すし飯か
このページの出典(4件)
- 沿革|鈴茂器工株式会社(鈴茂器工株式会社)2026-10-04 閲覧
- 高嶺の花だった寿司の大衆化を実現した「寿司ロボット」。誕生から40年以上活躍し進化を続ける開発STORY(2024年8月29日)|鈴茂器工のストーリー|PR TIMES STORY(鈴茂器工株式会社(PR TIMES STORY))2026-10-04 閲覧
- 機械遺産 第107号(2021年認定)江戸前寿司自動にぎり機 ST-77 寿司ロボット1号機(日本機械学会)2026-10-04 閲覧
- 7月3日は「寿司ロボットの日」(鈴茂器工)2026-10-09 閲覧