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「すし」という言葉の生まれ

「すし」という言葉は、どこから来たのか。辞書をさかのぼると、台所のある調味料に行き着きます。同じ音の別の言葉、寿司の別の呼び名、満員電車のたとえまで。言葉としての「すし」の話です。

酢から「酸し」へ

「すし」という言葉をさかのぼると、台所の酢に行き着きます。塩や醤と並んで古くから使われてきた調味料の「酢」に、形容詞を作る「し」が付いて「酸し」。酢のような味がする、つまり酸っぱい、という意味の言葉で、いまの言い方なら「酸い」です。平安初期、830年ごろの東大寺諷誦文には、もう「酢子」に「すきみ」と読みを付けた一節がある。さらに古くは、酸っぱさを塩辛さや辛さと分けずに、まとめて「からし」と言っていたと考えられています。
寿司の「すし」は、この形容詞から生まれた名詞です。デジタル大辞泉の見出しには形容詞「酸し」の終止形から、日本国語大辞典には「酸し」から、とある。酸っぱい、という味の言葉が、そのまま食べ物の名前になったわけです。なぜ酸っぱかったのか、どんな字を当ててきたのかは、寿司ばなし「寿司・鮨・鮓、三つの字」にゆずります。

ミサゴの寿司

酸っぱい寿司のはじまりを思わせる話も残っています。ミサゴというワシタカ科の鳥が、とらえた魚を岩陰などに蓄えておく。そこへ海水がかかって自然に発酵し、酢漬けのようにおいしくなる。これが「鶚鮨(みさごずし)」の説話で、自然に発酵した魚を人間が集めて珍重していた、という昔の姿をうかがわせます。

もうひとつの「すし」

辞書を引くと、食べ物とは別の「すし」も出てきます。ひとつは、なれなれしく出過ぎていて、いやみなこと。平安の終わり、1179年ごろの『梁塵秘抄』に用例がある。もうひとつは、人情の機微に通じていること、粋なこと。近松門左衛門の『曾根崎心中』(1703)には「やさしやすしや」と出てきます。同じ音でも、こちらは食べ物の「すし」とは別の項目。粋な寿司、と続けたくなるところですが、辞書はそこまでは言っていません。

すもじ、弥助、すし詰め

女房ことばにも、寿司の呼び名があります。「すもじ」「おすもじ」。室町時代から使われてきた言葉です。作り方には決まりがあって、言葉の頭の一音か二音に「もじ」を付ける。「すし」の「す」に「もじ」で、すもじ。頭に「お」を付ければ、もっと丁寧になる。同じ作りの言葉はたくさんあって、髪の「かもじ」、杓子の「しゃもじ」もその仲間です。台所のしゃもじと寿司のすもじは、同じ作りの兄弟。
もうひとつ有名な別名が「弥助」。樋口一葉の『たけくらべ』にも「後刻に弥助でも誂えようか」というせりふが出てきます。名前の出どころは、歌舞伎『義経千本桜』に出てくる吉野の寿司屋。芝居と店の話は、寿司ことば「なれ寿司」と寿司ばなし「11月1日は寿司の日」にあります。
寿司は、たとえの言葉にもなりました。満員の電車や教室を言う「すし詰め」です。その話は、寿司ばなし「「すし詰め」の始まり」で。

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