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寿司ネタは逆さ言葉、ドヤやショバの仲間

タネをひっくり返してネタ。辞書で「倒語」を引くと、宿をドヤ、場所をショバと並んで、寿司ネタのネタが顔を出します。逆さ言葉の一族の中で、ネタはどんな位置にいるのか。

辞書のいちばん先に

辞書で「倒語」を引くと、例のいちばん先に出てくるのがネタです。デジタル大辞泉は、「たね(種)」を「ねた」、「やど(宿)」を「どや」、「ばしょ(場所)」を「しょば」と言う類、と並べる。精選版日本国語大辞典も、まず「ねた(種)」、続いて「れこ(此)」。倒語は、語の音節の順序を逆にしてつくった言葉で、さかさことばとも呼びます。意味を強めたり、仲間以外に知られないようにしたりする隠語に、多く使われてきました。

逆さ言葉の一族

寿司ネタの兄弟分を、辞書の用例でたどってみます。ドヤは宿屋のこと。盗人やてきや、寄席芸人の仲間の隠語で、1723年の歌舞伎『大塔宮曦鎧』に、もう「どやで寝るのが、エイヤラサ」。レコは「これ」の逆さで、お金や情人をわざとぼかして言う言葉です。こちらは1748年の『仮名手本忠臣蔵』に出てくる。ネタの用例は、江戸後期の随筆『松屋筆記』(1818〜45年ごろ)。辞書に載る年で並べると、ネタは兄弟の中では後から来たほうでした。
ひっくり返し方は、ひと通りではありません。宿をドヤ、種をネタ。公園をエンコ、場所をショバ、上野をノガミ。サングラスをグラサンと呼ぶのも、逆さ読みの俗語です。犯罪者の隠語では、この転倒が主流でした。声を「えこ」、芝居を「ばいし」、警部を「ぶけい」。つくるを「くつる」、丸いを「るまい」と、動詞や形容詞までひっくり返す。美人を「カナカナ」と呼ぶ例まであって、こちらは副詞をひっくり返して名詞にしたものです。

ネタとシャリ、ゲソ

同じ寿司屋の符丁でも、ネタとシャリは生まれ方が違います。隠語の作り方で分けると、ネタは逆語、ひっくり返した言葉。シャリは、ほかの言葉の借用です。釈迦の遺骨が米粒に似ていることから、米や飯をシャリと呼んだ。片や音をひっくり返し、片や形の似たものから借りてくる。握り一貫の上と下で、言葉の作り方がまるで違うのが面白いところ。
隠語は、意味も顔ぶれもよく入れ替わります。寿司屋でイカの足を指すゲソが、いい例です。もとは下足、脱いだ履物のこと。隠語の世界では、下駄の意味から草鞋、あし、さらに逃亡へと転々としてきた。新しい響きが好まれるうえ、秘密を守るにはしょっちゅう変わるほうが都合がいい。使う人の輪が狭いので、変わっても困らないのです。

表通りに出た隠語

ところが、広まりすぎると隠語ではなくなる。「ネタ」も「ロハ」も、一般に広く知られて、日常の言葉との区別がつきにくくなった隠語です。ロハは「只」の字を、カタカナのロとハに分けて読んだもの。1886年の『雪中梅』に、もう「『ロハ』でも取合人がない」と出てきます。隠語が日常の言葉になると、隠す力は薄れ、また新しい隠語が生まれる。寿司ネタは、逆さ言葉の一族の中で、すっかり表通りに出てしまった一語です。

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