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ことば

シャリか、酢飯か、すし飯か

握りの下にある、酢を合わせたご飯。このサイトはシャリと書きますが、酢飯とも、すし飯とも、寿司飯とも呼ばれます。辞書、寿司屋の組合、酢のメーカー、炊飯器の取扱説明書、国の資料。一つずつ開いて、どの呼び名で書いてあるかを確かめてみました。

辞書の見出しは、すし飯

まずは辞書から。「鮨飯(すしめし)」を引くと、デジタル大辞泉は、鮨に用いる飯で、白米に酢・塩・砂糖で味をつけたもの。精選版日本国語大辞典は、砂糖を入れる場合もある、と一歩引いた書き方で、最初の用例に許六の『本朝文選』(1706)を挙げています。料理の辞典は、すし酢で味をつけた飯で、ややかために炊く、とまで書く。では「酢飯(すめし)」はどうか。大辞泉の説明は、酢をまぜた飯、特に鮨飯のこと。酢飯の説明が、鮨飯を指さして終わります。説明の本体を持っているのは、すし飯の側です。
辞書のシャリは、もっと大づかみです。大辞泉の「舎利」は、仏の遺骨のほかに、形が似ているところから白い米粒、また米飯、白飯。添えられた例文は「すし種も舎利もいい」で、寿司屋の会話が聞こえてきそうですが、語釈そのものは寿司のご飯に限っていません。日本国語大辞典が挙げる米粒の意味の最初の用例は、浄瑠璃『妹背山婦女庭訓』(1771)。白米の飯を「銀舎利」と呼ぶのも同じ流れで、大辞泉は、第二次大戦中から戦後の食糧不足の時代に、麦飯や代用食に対して言い始めた俗語と説明しています。名前の由来の話は、寿司ことば「シャリ」にあります。

組合の手引きと用語集

寿司屋の組合はどうか。全国すし連のすし検定の学習ページには、寿司屋の言葉を集めた一覧があり、そこに「シャリ すし飯のこと」。組合も、シャリをすし飯で説明しています。学習ページ6本を、目次と見出しの重なりも含めて数えると、すし飯が13回、シャリが4回。シャリのうち2回は「江戸前ずしと関西ずし」のシャリの違いを書いた節の目次と見出しで、その節の本文は、ご飯を炊く、と書き進めます。組合が作った「すし店のHACCP制度導入の手引き」は76ページで、すし飯が7回、シャリは一度も出てきません。寿司ばなし「シャリの米」で触れた1969年の論文も、題は「すし飯に関する研究」でした。
その手引きの中で、すし飯がどこに置かれているかが面白い。料理を衛生管理のうえで三つに分ける表で、すし飯は「加熱後冷却または再加熱するもの」の組に入ります。並ぶのは、タレ、アナゴ、玉子焼、カンピョウ、ゆでたエビとタコ。火を通したあと冷ますか、温め直して出すもの、という分け方です。例として挙げられた一行は「加熱後冷やして提供する料理、作り置きの煮物、すし飯」。温度が10〜60℃の危険な帯に長くとどまらないよう、素早く冷ますことが肝心、と念を押しています。

酢のメーカーと炊飯器

酢を造る側は、呼び名をひとつに絞っていません。ミツカンの「すし酢」の商品ページは、かけて混ぜるだけで「すしご飯」ができる、と書く。家庭向けのレシピは題が「寿司飯」で、作り手の一言には「山吹色のすし飯」。いちばんにぎやかなのは特級すし酢のページです。レシピのくくりは「こだわりの赤しゃり」と「こだわりの白しゃり」、商品の説明には「シャリにお使いいただいた際に」、寿司丼のレシピの紹介は「本格的なすし飯」、そして下には「おいしい酢飯の作り方」。一枚のページに、しゃり、シャリ、すし飯、酢飯が同居しています。
台所の炊飯器は、そろってひらがなの「すしめし」です。象印の極め炊き NP-AS10/AS18 はメニュー名がすしめしで、合わせ酢を加えることを考えて、少しかためで粘りの少ないさらりとしたご飯に炊き上げる、と説明する。タイガーの JKA-G もすしめしのコース。パナソニックの SR-SPX105/185 はコース名が「すし」で、水を入れる目安の線は「すしめし水位線」です。ここで笑ってしまうのが、パナソニックの取扱説明書に73回出てくるシャリ。全部が「銀シャリ」で、時間をかけて白米をおいしく炊くコースの名前です。この取扱説明書の中では、シャリは酢を合わせる前の、白いご飯の側の言葉です。

国の資料を数える

国の食品成分表、日本食品標準成分表2020年版(八訂)には、炊いた米が玄米、精白米、はいが精米と細かく並ぶ一方で、寿司のご飯の項目はありません。そのかわり、調味料の欄にすし酢が三つ立っています。ちらし・稲荷用、にぎり用、巻き寿司・箱寿司用。備考の材料割合を見比べると、ちらし・稲荷用が米酢15、上白糖7、食塩1.5。にぎり用は米酢10、上白糖1、食塩1.2。巻き寿司・箱寿司用は米酢12、上白糖3、食塩1.4。握りの酢は、砂糖がぐっと控えめです。
郷土料理はどうか。農林水産省の「うちの郷土料理」で寿司を扱う57本のうち、すし飯と書いたページが35本、酢飯が33本、寿司飯が6本、シャリが2本。26本は、このうち二つ以上を一つのページで使い分けています。東京のにぎりずしのページは、冒頭で「酢飯の上に具材をのせた」と書き、江戸の握りの大きさを語るくだりでは、すし飯。江戸前寿司は赤酢で締めた米飯で、作り方の手順はご飯です。シャリが出てくるのは、長崎の大村寿司と、伊豆諸島の島ずし。島ずしの作り方には「酢飯を一口大の大きさににぎってシャリをつくる」とあります。どの呼び名も使わないページも8本。ふなずしは桶に飯を、北海道の飯寿司は炊いて冷ました米を漬け込みます。
集めた資料の範囲で並べ直すと、こうなります。辞書と組合の用語集は、酢飯もシャリも、すし飯で説明する。衛生の手引きと炊飯器と研究の題も、すし飯かすしめし。酢のメーカーと国の郷土料理のページは、一枚の中でいくつもの呼び名を行き来する。シャリが顔を出すのは、組合の言葉の一覧の見出し、特級すし酢の赤しゃりと白しゃり、握ったあとの島ずしのご飯。同じ一膳のご飯でも、書く人の立ち位置で名前が変わる。このサイトは、その中からシャリを選んで書いています。

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