湯呑みの魚へん
ゆのみのうおへん
寿司屋の大きな湯呑みにびっしり並ぶ、魚へんの漢字。季節を映した字もあれば、中国ではまるで別の魚を指す字、日本で作った字もある。読めると、待ち時間が楽しくなります。
寿司屋の大きな湯呑みやのれん、マッチに魚へんの字を並べる趣向は、1960年代の本や雑誌にもう出てきます。全部読めたら寿司はただ、という店の話まであった。1968年の商業誌には、ミツカン酢が寿司店向けのPRに魚へんの文字集を配り、それが全国に広まった、と書かれています。
魚へんの字は、魚の見た目や性質、旬の季節を映して組み立てられています。全国すし商の組合が並べる字だけでも、鮪(マグロ)、鰯(イワシ)、鰆(サワラ)、鱚(キス)、鰈(カレイ)、鯵・鰺(アジ)、鮗・鰶(コノシロ)、鱧(ハモ)、鰤(ブリ)、鰊(ニシン)と、寿司屋でおなじみの顔ぶれがずらり。
わかりやすいのは、魚へんに春の「鰆」。瀬戸内海や関西で生まれた字と見られます。このあたりでは、サワラが産卵のために瀬戸内へ入ってくる春が、いちばんよくとれる時期でした。俳句でも鰆は春の季語です。
「鰺」のつくりの「参」は、旧暦の3月、弥生のこと。その頃がアジの旬だから、と説明する干物屋もあります。ところが漢字の成り立ちをたどると、話はまるで違う。もとは魚のなまぐさいにおいを表す字で、魏の曹操の名を避けるために、つくりを「参」に改めた形なのです。
魚へんに師で「鰤」。師走においしいから、とよく聞きますが、これは俗説と見られています。中国の古い書物で鰤といえば、毒のある魚、年を経た老魚のこと。それを日本では、ぶりの字に使っています。
「鮪」も、中国ではマグロではありません。『詩経』に出てくる鮪は、川の魚と考えられています。日本では古くからこの字を「しび」と読み、『古事記』の歌にも、しびを突く海人が出てくる。
「鰈」は、目が片側に寄った比目魚のこと。中国の古い字書『爾雅』には、東方に比目魚がいて、二匹並ばないと進めない、その名を鰈という、とあります。
日本で作った字、国字も多い。鱚、鰯、鱈は、どれも国字です。コノシロの「鮗」も、そのひとつ。
コハダの親、コノシロには字が四つもあります。いちばん古いのが「鰶」で、平安時代の字書にもう載っている。狐の好物のコノシロをお稲荷さんに供えて祭る習わしから、魚へんに祭。秋祭りの寿司に広く使われたから、という見方もあります。もう一つの「鮗」は国字で、平安の人が正月料理にコノシロを使ったので、魚へんに冬。
『江戸前の旬』では
読者の感想によれば、66巻には魚へんの難読漢字がずらりと並ぶ話があります。
このことばが出てくるタネ
このページの出典(16件)
- 寿司屋で見かける「魚偏の漢字が描かれている湯呑み」はいつからあるのか?というメモ(2025年10月3日)(TOKAS(note))2026-09-29 閲覧
- すし検定学習 (六)魚の面白漢字(全国すし商生活衛生同業組合連合会)2026-09-29 閲覧
- サワラ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 鰆(さわら)とは|コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- マアジ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 鰺(あじ)とは|コトバンク(平凡社『普及版 字通』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- ブリ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 鰤(ぶり)とは|コトバンク(平凡社『普及版 字通』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- 鮪(まぐろ)とは|コトバンク(平凡社『普及版 字通』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- 鰈(かれい)とは|コトバンク(平凡社『普及版 字通』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- 鱚(きす)とは|コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- 鰯(いわし)とは|コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- 鱈(たら)とは|コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』ほか)(コトバンク)2026-09-29 閲覧
- コノシロ|Wikipedia(Wikipedia)2026-09-25 閲覧
- 江戸前の旬 66巻の感想(シーナ@食べ物漫画好き)|読書メーター(読書メーター(シーナ@食べ物漫画好き))2026-10-11 閲覧
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