寿司のデータベース

品書き / 光り物

コハダ小鰭

こはだ/Dotted gizzard shad (Konoshiro)

銀に光る皮目、その下に白い身。コハダは、塩と酢の仕事で別の魚みたいに化けるタネです。皮ごと食べるので、味わうのは皮の香りと、皮と身の間の脂の旨み。標準和名はコノシロ。育つにつれてシンコ、コハダ、ナカズミ、コノシロと名前が変わる出世魚なのに、値段は逆で、小さいほど高い。夏の初物のシンコともなれば、市場で1kgあたり数万円の値が付くこともあります。

コノシロ(全長約29cm)
コノシロ(全長約29cm)写真: 四葉亭四迷(CC BY-SA 4.0)
コハダの握り
コハダの握り写真: Arashiyama(CC BY-SA 3.0)

旬

シンコ(新子)
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脂がのるのは秋から冬。ただ江戸前の世界では、シンコが出回る夏から秋を旬とすることもあります。

旬 出回る時期

種類

シンコ(新子)

その年に生まれたばかりの小さな子。晩春から初夏にかけて関東の市場に入り始めます。この小ささをわざわざ好んで使うのは、関東の寿司屋や料理店くらいのもの。

晩春から初夏、東京をはじめ関東の市場に顔を出し始める。

関連することば 新子(シンコ)

コハダ(小鰭)

1尾をそのまま1貫に付ける「丸づけ」の大きさ。江戸の昔から、東京の光り物といえばこれ。

ナカズミ

別名 ナカツミ

片身で1貫を握る大きさ。ここまで育つと、値は下がり始めます。

コノシロ

成魚。小骨が硬くなるので江戸前寿司にはまず使われず、値も一気に落ちる。それでも旨みは強く、塩焼きや土地の寿司に使われます。

鮨のためにある魚

コハダは「鮨のためにある魚」。銀座「ほかけ」の矢﨑桂さんのこの言葉に尽きます。「煮ても焼いても食えない」のに、塩と酢で〆てシャリと合わせると、別物のように旨くなる。だから塩の量も振り方も、〆る時間も、その日のコハダを見て毎日少しずつ変えていく。
小さくて身が薄く、さばくだけでもひと苦労。そのうえ塩と酢の加減で風味ががらりと変わるので、職人の腕を計る魚と呼ばれてきました。「コハダに始まりコハダに終わる」という言葉まであるほどです。
コハダは薄皮さえむかず、皮ごと食べる数少ない寿司ダネです。皮の香りと、身の間にある脂の旨み。コハダは、皮を味わうタネなんです。
関東出世魚なのに、出世するほど安くなる。寿司に向かない大きな成魚は子どもより値が落ち、とくに関東でその傾向が強い魚です。

塩で20分、酢で20分

仕込みは二段構え。まず塩で余分な水分と臭みを抜き、次に酢で締めます。目安は塩で20分ほど、酢で20分ほど。ただ、塩の量も酢の時間も店によって違う。だからコハダには、その店の個性がはっきり出ます。
身がしまった合図は、表面がうっすら白くなる瞬間。大きさ、身の厚さ、脂ののりで加減は全部変わるから、見極めは秒単位です。酢はやや強めに。煮きりとの釣り合いを考えての加減です。締めたら冷蔵庫でひと晩ねかせて、食べごろを迎えます。
握りの仕上げは店ごとに違います。皮を残して軽く炙る店。飾り包丁で切れ目を入れ、食感を整える店。酢橘、刻みネギ、柚子皮を添える店。最後のひと手間ひとつで、同じコハダがまるで違う顔を見せる。ここが、じつに面白い。シャリの温度も効いてきて、熱すぎれば身が崩れ、冷たすぎれば味が立たない。
関西東京では、塩をしてから生酢で締める。関西あたりでは甘酢に漬け込む。同じ魚でも、東と西で仕事がまるで違います。

大きさで変わる名前

じつは、呼び名の境目は、かなりあいまいです。ひとつの目安は、10cm以下がシンコ、10〜14cmがコハダ、15〜20cmがナカズミ。20cmを超えるとコノシロで、江戸前寿司にはもう使わない。一方で、4〜5cmをシンコ、7〜10cmをコハダ、13cm程度をナカズミ、15cm以上をコノシロとする分け方もあります。近ごろは、そこまで厳密には言わなくなってきました。
古い名前は「ツナシ」。大伴家持の歌に「都奈之」として出てきます。昔の文献には、コノシロよりツナシの名のほうが多く出てくる。コノシロの名が広まったのは戦国のころからです。
漢字で書くと、魚へんに祭で「鰶」。由来は二つあります。狐の好物だったからお稲荷さんに供えた、という話と、秋祭りの寿司にこぞって使われた、という話。

この城を食う魚

「コノシロ」という名前には、ちょっとぞっとする伝説がついています。下野の長者が、娘を国司に差し出せと迫られ、「娘は死にました」と偽って、棺にこの魚を入れて焼いた。焼くと人を焼くような匂いがするから、というのがその理由。娘の代わり。だから「子の代」。
もう少し身もふたもない由来もあります。たくさん獲れて安く、飯の代わりにされたから「飯代魚(このしろ)」。
武士からは、とことん嫌われました。「この城を食う」に聞こえるうえ、腹から開くので「腹切魚」。縁起でもない、というわけです。
将軍の膳に出してはいけない魚介の一覧にも、コノシロ、こはだが名を連ねています。並んでいるのは秋刀魚、鰯、鮪。いまなら寿司屋の人気者ばかりです。
福岡博多では、コノシロのことを「親の借金、子の代」としゃれて言う。

バッテラも、もとはコノシロ

バッテラ
バッテラ写真: Kanko*(CC BY 2.0)
大阪大阪のバッテラも、もとはコノシロでした。いまのバッテラは、酢で締めたサバをシャリにのせて押し、薄い白板昆布で包んだ押し寿司。ところが始まりは明治24年、順慶町井戸の辻にあった「寿司常」です。大阪湾で山ほど揚がるコノシロの使い道を相談され、頭と尾を落としたコノシロの形を木で作って押し抜いた。その姿が舟そっくりで、ポルトガル語の小舟「bateira」からバッテラの名が付きます。やがてコノシロが獲れなくなって値が上がり、安くていつでも手に入るサバに代わって、いまの姿になりました。寿司常は、いまも四代目が大阪天満宮のそばで発祥の味を守っています。
兵庫姫路では10月の祭り(松原八幡神社の「けんか祭」など)に欠かせないのが「鰶のすし」。25cm前後の大きなコノシロを酢で締め、家ごとに作ります。江戸前では使われない大きさが、ここでは祭りの主役です。
有明海・八代海沿岸有明海や八代海のまわりも、コノシロをよく食べる土地です。有明海の沿岸はコハダ、ナカズミの産地でもあり、熊本県の天草では姿寿司をはじめ、さまざまな料理にします。背開きして塩漬けしたコノシロを酢で締め、腹にシャリを詰めた姿寿司は、この沿岸でほぼ1年中食べられています。
海を渡った韓国では、国内以上に大事な食用魚で、養殖までされています。呼び名は「ジョノ」。市場や料理店では生きたまま売られ、背ごしにもします。秋夕(9月下旬)の食卓に欠かせない魚で、「ジョノを焼く匂いにつられて、家出した嫁も戻ってくる」ということわざまであります。
好んで食べるのは関東、兵庫県や徳島県の瀬戸内海側、熊本県など。まったく食べない土地もあって、好みはくっきり分かれます。首都圏は寿司屋が多いぶん、コハダの値も高め。

年の瀬の粟漬け

関東年の瀬になると、関東の店先には「粟漬け」が並びます。酢で締めたコハダに、ゆでた粟をまぶしたもの。正月のお重に詰めることを考えて、酢はきつめに締めてあります。
家で締めるなら、手順は職人と同じ二段構えでいけます。開いた身に塩をして30分ほど置き、器を傾けて、出てきた水分を塩ごと捨てる。それから酢に30分ほど。時間は好みで決めてかまいません。酢に漬けると、小骨もやわらかくなります。
頭と背骨と腹は、捨てずにアラ汁へ。鍋に入れて日本酒を加え、煮立ったら醤油と塩で味をととのえます。
ひとつだけ気をつけたいのがアニサキス。家庭で使う酢で締めても、塩をしても、幼虫は死にません。生で食べるなら、−20℃で24時間以上冷凍するか、加熱を。酢締めにするなら、先に冷凍しておくのがおすすめです。

値段

回転寿司・街の寿司屋・高級店のおまかせを並べて比べる

大衆店

  • 築地玉寿司 築地本店「小肌」お好み1貫(税込)330円2026-09-29 時点
  • 築地すし鮮「小肌」おこのみ1貫(税込)315円2026-09-29 時点
  • すしざんまい「こはだ」1個(グランドメニュー、税込)272円2026-09-29 時点
  • 梅丘寿司の美登利「こはだ」(税込。貫数の記載なし。一部店舗は価格が異なる場合あり)198円2026-09-29 時点
  • 芦屋 波沙鮓「こはだ」にぎり1貫(税込。本体価格800円)880円2026-09-30 時点

市場

  • シンコの出始め(関東の市場)100gで2万円以上することがある(年の記載なし)
  • 6月前からのシンコ(関東の市場)1kgあたり4万〜11万円も珍しくない(年の記載なし)
  • 2012年7月9日 4g前後(4〜5枚づけ)1kgあたり2万2000円

『江戸前の旬』では

連載の第16話は、題が「シンコ」です。

『江戸前の旬』でシンコが大きな役を負うのは12巻。旬が仕込んだシンコとヅケとマコガレイを、江戸切子の職人の客が「これは江戸前の握りではない」と言い切り、柳寿司の江戸前とは何かが問われます。75巻の紹介文はシンコを「江戸前の華」、114巻は「初夏の風物詩」と呼ぶ。109巻では、春から初夏の極上のタネにコハダが並んでいます。

読者の感想によれば、14巻ではコノシロを骨切りしてから酢で締め、34巻には太田道灌とコノシロの話が出てきます。

82巻に「コハダ」、93巻に、育ったコハダの名前の「コノシロ」と題した話。85巻には「鹿野課長の寿司講座」のシンコ編もあります。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
ツナシ関西若魚の呼び名
ハビロ有明海(佐賀県)
ジャコ東京、高知県浦戸東京では4cmくらい、高知では6cmくらいのもの
ドロクイ高知県浦戸
ナカツ大阪、兵庫県神戸若魚
ゼニコ和歌山県湯浅3〜6cmのもの。『紀州魚譜』(1929)
シンパ浜名湖周辺
モゴ秋田県八郎潟
ハツコ/サッコ広島県旧安芸郡
ジョノ(전어)韓国韓国では大きさで名前が変わらない

次に読みたくなる

コハダとつながるタネ

出てきた寿司ことば

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