キス鱚
きす/Japanese whiting
寿司屋でキスといえば、標準和名シロギス。江戸時代に江戸湾の打瀬網で揚がっていた、正真正銘の江戸前ダネです。天ぷらの顔として有名ですが、江戸前寿司では酢で締めて握るのが基本です。上品で淡い味と思って食べると、あとから個性の強さに気づかされます。


旬
キス
旬は春から夏。とくに脂がのるのは若葉の季節で、産卵が盛りの7〜8月はいったん味が落ちます。秋にもう一度脂がのる。
旬 出回る時期
冬はざらざら、若葉のころにつやつや
冬のキスは、体がざらざらしています。夏には水深2〜3mの砂地にいたのが、寒くなると20〜30mの深みに落ちて、じっと寒さをこらえる。食欲も落ちるのか、脂もうま味も乏しい。それが3月、4月、5月と暖かくなるにつれて、体にぬめりが出て艶めいてくる。木の芽どきのキスほどうれしいものはありません。
脂がのってうま味十分のキスも、7月、8月の産卵の盛りを迎えると、がくんと味が落ちる。産卵後にしっかり食べるのか、秋にはまた脂がのって、深みへ「落ち」はじめるころに頂点を迎えます。
神奈川相模湾を代表するうまい魚のひとつ。年が明けるとすぐにシロギス釣りが解禁になります。この時期は水深30mほどの深みにいて、魚体を持つと冷たく感じるほど。5月ともなると浅場の釣りになり、引きも味もよくなる。
打瀬網が運んだ江戸前ダネ
一晩おいて、昆布で締めて
釣りたてはシコッとして、甘味もある。ところがタネケースに一晩残った2かん分を翌日握ってもらうと、これが驚くほどうまい。透明感は消えて食感も落ちたぶん、甘味とうま味がぐんと増えている。一晩で、別の魚に化けていました。
昆布締めもいい。三枚に下ろして皮を引き、塩を振って小半時ほど。水気が浮いたら洗い、昆布で包んで1日置く。飴色になった身を握ると、まず昆布の香りとうま味が立ち、そのあとにキスのうま味が舌に浮かんでくる。仕事をしたタネは、シャリと合わさって、いっそう強く残ります。
「きすご」と呼ばれた海の貴婦人
本来の呼び名は「きすご」。いま一般に言う「きす」は、語尾の「ご」が落ちた形です。「きす」は「生直」で、性質が素直で飾り気がないこと。そこに魚を表す「ご」が付いた。
記録に「きすご」の名が初めて出てくるのは、約500年前の『御湯殿上日記』。1712年の『和漢三才図会』にも「幾須吾(きすご)」とあり、大きなものは「吉豆乃(こずの)」と呼ぶと書かれています。兵庫県赤穂には、いまも「コズノ」の呼び名が残る。
白く透きとおった美しい姿から、ついた異名が「海の貴婦人」。江戸時代には贅沢な魚で、お見舞いやお祝いの贈り物にやりとりされました。
夏目漱石の『三四郎』(1908年)にも出てきます。東京へ向かう汽車の中、西洋人の女性の目鼻立ちを、鱚や魳(かます)になぞらえるくだりです。
背が淡い黄褐色で腹が白いから「シロギス」。青から緑がかったアオギスと区別する名前です。ただし白っぽいキスは古い。やや透明感があって赤みを感じ、目が黒く澄んで、触って硬いものを選びます。

天ぷらだけじゃもったいない

塩焼きは、細い竹串で内臓を口から抜き取る「ずぼ抜き」にしてから。切れ目を入れて塩を振り、少し置いて、表面が香ばしくなるまでじっくり焼きます。皮目の風味が抜群。白子や真子が入っていたら、それも最上級の味です。
たくさん手に入ったら酒干しに。開いて塩を振り、1時間以上置く。酒で洗って少し寝かせ、水気をよく取って半日干す。強めに干すと日持ちします。焼くと酒の香りがふわりと立つ。
刺身にするなら、皮目をあぶる焼霜造りがおすすめ。三枚に下ろして腹骨と血合い骨を抜き、皮目をあぶって冷水に落とし、水気をよく取って切ります。皮の香りが実にいい。皮を引いてそのまま刺身にしても、独特の風味とうま味があります。
東京では江戸時代から需要の高い魚です。ところが近年は漁獲量の落ち込みが激しく、安い天ぷら店では輸入魚が使われている。関東の市場で鮮魚は高値で安定し、スーパーや魚屋に並ぶことはほとんどありません。
値段
市場
- シロギス鮮魚(関東の市場)高値で安定している(年の記載なし)
『江戸前の旬』では
131巻に、シロギスの話が入っています。同じ巻にはズワイガニ、カッパ巻き、アオリイカの話も。
読者の感想によれば、80巻ではキスを三種類の握りにし、酒干しにして棒寿司にもします。
80巻と84巻には、どちらも「キス」と題した話が入っています。
土地の呼び名
| 呼び名 | 土地 | 種類・メモ |
|---|---|---|
| キスゴ | 紀州各地(三重県東部・和歌山県)、徳島県海部郡宍喰 | 瀬戸内海など西日本各地でも |
| シラギス | 東京、大阪、有明海 | |
| マギス | 東京 | |
| アカギス | 徳島 | アオギス(青ぎす)に対しての「赤」か |
| カハキ | 大阪府 | |
| コズノ | 兵庫県赤穂 | |
| キスコ | 秋田県八郎潟 | |
| キツゴ | 島根県 | |
| カワギス | 鹿児島 | |
| ヒジタタキ(肘叩) | 関東 | 釣り人が大型を呼ぶ名。小さいものはピンギス |
次に読みたくなる
キスの寿司ばなし
キスとつながるタネ
同じころに旬を迎えるタネ
出てきた寿司ことば
- 光り物皮が光る魚に、酢で締める仕事をほどこす。江戸前寿司でいう光り物です。言葉は江戸時代の握り寿司で生まれ、その色合いと酢で締める仕事に由来します。代表はコハダ。
- 酢締め(酢〆)魚に塩をしてから酢に漬けて締める、江戸前寿司の仕事。コハダ・サバ・アジなどの光り物に施します。
- 昆布締め(昆布〆)刺身を昆布で挟んで寝かせる仕事。昆布が余分な水分を吸うので日持ちがよくなり、そのうえ昆布の旨みが移ります。富山県の郷土料理として知られています。
- 江戸前もとは江戸城の目の前の海のこと。埋め立てで元の海が消えるにつれて範囲が広がり、いまは東京湾全体を指します。寿司の世界では、その海の魚介に仕事を施して握る流儀の名でもあります。
- タネ寿司の材料、とくにシャリの上にのせる魚介のこと。漢字で書けば「種」。これをひっくり返して読んだのが「ネタ」です。
- 湯呑みの魚へん寿司屋の大きな湯呑みにびっしり並ぶ、魚へんの漢字。季節を映した字もあれば、中国ではまるで別の魚を指す字、日本で作った字もある。読めると、待ち時間が楽しくなります。
このページの出典(11件)
- シロギス|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- シロギスの握り(1499貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- シロギスの酢じめ握り(1500貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- きす/シロギス(44貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 鱚の昆布締め/シロギス(665貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- シロギス - Wikipedia(Wikipedia)2026-09-25 閲覧
- 白鱚/シロギス(721貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 江戸前の旬 131巻(作品紹介)|コミックシーモア(コミックシーモア(NTTソルマーレ))2026-10-11 閲覧
- 江戸前の旬 80巻の感想(シーナ@食べ物漫画好き)|読書メーター(読書メーター(シーナ@食べ物漫画好き))2026-10-11 閲覧
- 江戸前の旬 80巻(出版社内容情報・収録話)|紀伊國屋書店(紀伊國屋書店)2026-10-11 閲覧
- 江戸前の旬 84巻(出版社内容情報・収録話)|紀伊國屋書店(紀伊國屋書店)2026-10-11 閲覧