寿司のデータベース

品書き / 光り物

キス鱚

きす/Japanese whiting

寿司屋でキスといえば、標準和名シロギス。江戸時代に江戸湾の打瀬網で揚がっていた、正真正銘の江戸前ダネです。天ぷらの顔として有名ですが、江戸前寿司では酢で締めて握るのが基本です。上品で淡い味と思って食べると、あとから個性の強さに気づかされます。

シロギス(いおワールドかごしま水族館)
シロギス(いおワールドかごしま水族館)写真: Totti(CC BY-SA 4.0)
キスの握り
キスの握り写真: Zheng Zhou(CC BY-SA 4.0)

旬

旬は春から夏。とくに脂がのるのは若葉の季節で、産卵が盛りの7〜8月はいったん味が落ちます。秋にもう一度脂がのる。

旬 出回る時期

冬はざらざら、若葉のころにつやつや

冬のキスは、体がざらざらしています。夏には水深2〜3mの砂地にいたのが、寒くなると20〜30mの深みに落ちて、じっと寒さをこらえる。食欲も落ちるのか、脂もうま味も乏しい。それが3月、4月、5月と暖かくなるにつれて、体にぬめりが出て艶めいてくる。木の芽どきのキスほどうれしいものはありません。
脂がのってうま味十分のキスも、7月、8月の産卵の盛りを迎えると、がくんと味が落ちる。産卵後にしっかり食べるのか、秋にはまた脂がのって、深みへ「落ち」はじめるころに頂点を迎えます。
神奈川相模湾を代表するうまい魚のひとつ。年が明けるとすぐにシロギス釣りが解禁になります。この時期は水深30mほどの深みにいて、魚体を持つと冷たく感じるほど。5月ともなると浅場の釣りになり、引きも味もよくなる。

打瀬網が運んだ江戸前ダネ

江戸時代の江戸湾では、風の力で網を引く打瀬船の漁が盛んでした。揚がったのはクルマエビ、めごち、コウイカ、コハダ、そしてキス。それらがそのまま、江戸前の天ぷら種や寿司ダネになりました。
冷蔵庫のない時代、タネは完全な生では握りませんでした。穴子は煮る。イカやエビはゆでる。小魚は酢で締める。キスも酢締めです。大きいものは半身で1かんの「片身漬け」。小ぶりのものは開いて酢で締め、シャリをくるりと巻き込むようにつけました。
近ごろは生で握ることも増えました。小さな魚なので、三枚に下ろして血合い骨を抜けば、あっという間に握れる。口に入れたとたん、やさしい甘味。シャリとけんかせずに、見事になじみます。
キスは面白い魚です。上品で淡い味だと思って食べていると、じつは個性的で強い味にも思えてくる。後味がいいから、軽く感じるのでしょう。3かん、4かん、5かん食べても、まだ飽きない。

一晩おいて、昆布で締めて

釣りたてはシコッとして、甘味もある。ところがタネケースに一晩残った2かん分を翌日握ってもらうと、これが驚くほどうまい。透明感は消えて食感も落ちたぶん、甘味とうま味がぐんと増えている。一晩で、別の魚に化けていました。
昆布締めもいい。三枚に下ろして皮を引き、塩を振って小半時ほど。水気が浮いたら洗い、昆布で包んで1日置く。飴色になった身を握ると、まず昆布の香りとうま味が立ち、そのあとにキスのうま味が舌に浮かんでくる。仕事をしたタネは、シャリと合わさって、いっそう強く残ります。

「きすご」と呼ばれた海の貴婦人

本来の呼び名は「きすご」。いま一般に言う「きす」は、語尾の「ご」が落ちた形です。「きす」は「生直」で、性質が素直で飾り気がないこと。そこに魚を表す「ご」が付いた。
記録に「きすご」の名が初めて出てくるのは、約500年前の『御湯殿上日記』。1712年の『和漢三才図会』にも「幾須吾(きすご)」とあり、大きなものは「吉豆乃(こずの)」と呼ぶと書かれています。兵庫県赤穂には、いまも「コズノ」の呼び名が残る。
白く透きとおった美しい姿から、ついた異名が「海の貴婦人」。江戸時代には贅沢な魚で、お見舞いやお祝いの贈り物にやりとりされました。
夏目漱石の『三四郎』(1908年)にも出てきます。東京へ向かう汽車の中、西洋人の女性の目鼻立ちを、鱚や魳(かます)になぞらえるくだりです。
背が淡い黄褐色で腹が白いから「シロギス」。青から緑がかったアオギスと区別する名前です。ただし白っぽいキスは古い。やや透明感があって赤みを感じ、目が黒く澄んで、触って硬いものを選びます。
川原慶賀が描いたシロギス(1823〜1829年、シーボルト・コレクション)
川原慶賀が描いたシロギス(1823〜1829年、シーボルト・コレクション)写真: 川原慶賀(Naturalis Biodiversity Center 所蔵)(Public domain)
学名はSillago japonica。1843年、日本の沿岸で採れた標本をもとに、テミンクとシュレーゲルが記載しました。シーボルトが持ち帰った標本を整理した『日本動物誌』に載る魚で、図は長崎の絵師・川原慶賀が描いています。

天ぷらだけじゃもったいない

キスの天ぷら
キスの天ぷら写真: Kyu3a(CC BY-SA 4.0)
家で揚げるなら天ぷらがいちばん。天種として扱いやすく、家庭でも揚げやすい魚です。開いて腹骨と血合い骨を取り、背びれは念入りに除く。水気をよくきって小麦粉をまぶし、衣をつけて高温で短時間。皮に独特の風味が出て、身はふんわり甘い。近くに開いてくれる魚屋があれば、ぜひ。
塩焼きは、細い竹串で内臓を口から抜き取る「ずぼ抜き」にしてから。切れ目を入れて塩を振り、少し置いて、表面が香ばしくなるまでじっくり焼きます。皮目の風味が抜群。白子や真子が入っていたら、それも最上級の味です。
たくさん手に入ったら酒干しに。開いて塩を振り、1時間以上置く。酒で洗って少し寝かせ、水気をよく取って半日干す。強めに干すと日持ちします。焼くと酒の香りがふわりと立つ。
刺身にするなら、皮目をあぶる焼霜造りがおすすめ。三枚に下ろして腹骨と血合い骨を抜き、皮目をあぶって冷水に落とし、水気をよく取って切ります。皮の香りが実にいい。皮を引いてそのまま刺身にしても、独特の風味とうま味があります。
東京では江戸時代から需要の高い魚です。ところが近年は漁獲量の落ち込みが激しく、安い天ぷら店では輸入魚が使われている。関東の市場で鮮魚は高値で安定し、スーパーや魚屋に並ぶことはほとんどありません。

値段

回転寿司・街の寿司屋・高級店のおまかせを並べて比べる

市場

  • シロギス鮮魚(関東の市場)高値で安定している(年の記載なし)

『江戸前の旬』では

131巻に、シロギスの話が入っています。同じ巻にはズワイガニ、カッパ巻き、アオリイカの話も。

読者の感想によれば、80巻ではキスを三種類の握りにし、酒干しにして棒寿司にもします。

80巻と84巻には、どちらも「キス」と題した話が入っています。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
キスゴ紀州各地(三重県東部・和歌山県)、徳島県海部郡宍喰瀬戸内海など西日本各地でも
シラギス東京、大阪、有明海
マギス東京
アカギス徳島アオギス(青ぎす)に対しての「赤」か
カハキ大阪府
コズノ兵庫県赤穂
キスコ秋田県八郎潟
キツゴ島根県
カワギス鹿児島
ヒジタタキ(肘叩)関東釣り人が大型を呼ぶ名。小さいものはピンギス

次に読みたくなる

キスとつながるタネ

このページの出典(11件)