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品書き / 郷土寿司

手こね寿司

てこねずし/Hand-mixed bonito sushi (Tekonezushi)

醤油だれに漬けたカツオやマグロの赤身を、シャリと合わせて青じそや海苔を散らした、三重の志摩の寿司です。漁の合間に船の上で、刺身とご飯を手でこねて食べたのが名前の由来。ただ、米が貴重だった土地の暮らしを見ると、もとは大漁の祝いのごちそうだった、という読み方もできます。

手こね寿司
手こね寿司写真: N yotarou(CC BY 2.5)

船の上の即席めしか、大漁の祝いか

カツオの手こね寿司
カツオの手こね寿司写真: Miketsukunibito at Japanese Wikipedia(CC BY-SA 3.0)
三重始まりは、志摩市志摩町和具のかつお船。一本釣りでカツオを追う漁師たちが、忙しい漁の合間に、釣ったカツオを刺身にして醤油に漬け、ご飯に混ぜてかき込んだ。手でこねて作るから「てこね」。明治に入ると漁師の家や土地の人々に広まって、祭りや客を迎える日のごちそうになり、昭和には志摩を代表する郷土料理として観光客にもふるまわれるようになりました。
三重ところが、船の上の即席めしという話には、突っ込みどころがあります。志摩では、昭和16年(1941年)4月に米の配給が始まるまで、米はハレの日にしか食べないものでした。明治の中ごろまでのカツオ漁は手漕ぎの船で沿岸や近海に出るだけで、とれたらすぐ港へ戻って水揚げしていたから、船で食事をとる必要もない。そこで出てくるのが、もとは大漁の祝いに船主が船員にふるまったハレの食事だった、という見方です。漁のかたちが変わって船の上で食べるようになり、陸ではハレのごちそうとして残った。船上の話は、由来が忘れられてから聞き取られたもの、というわけです。
三重地元の商工会が語る筋書きは、もっと人間くさい。忙しいのに、とれた魚にいちいち醤油をつけるのは面倒だ。まとめて醤油に漬けてしまえ。ご飯には日持ちするように酢を合わせて、全部混ぜれば即席の寿司になる。こうして魚とご飯と醤油を手でこねる寿司が生まれ、そういう寿司をみな「てこね」と呼ぶようになった。
手こね寿司は、ちらし寿司の一種です。なかでも三重の志摩地方の郷土料理として知られ、「伊勢手こね寿司」「志摩のてこね寿司」とも呼ばれる。「手ごね寿司」と書くこともあります。ここで話しているのは、志摩地方の南部で長く親しまれてきたものです。

カツオの国の寿司

三重三重はカツオの漁獲量が全国4位(令和元年)。熊野灘では一本釣りと曳き縄釣りがさかんで、マグロの養殖でも主要な産地です。新鮮な魚が手に入るから、生で食べる機会が多い。手こね寿司が根づいたのも、その流れの上です。
カツオやマグロの赤身を刺身に引き、醤油などのたれに漬け込む。飯切り(木の桶)に広げたシャリの上にそれを並べ、青じそや海苔を散らします。最近は、白身のタイで作る手こね寿司も出てきました。
伊勢神宮内宮前の店の伊勢うどんと手こね寿司
伊勢神宮内宮前の店の伊勢うどんと手こね寿司写真: yosshi from Ise, Mie(CC BY-SA 2.0)
三重いまの姿になったのは、わりと最近です。昭和20年代までは、シャリの上に魚の切り身をのせるだけ。海苔をかけるようになったのは昭和30年代から。昭和40年代に、土地の色のある観光客向けの郷土料理として目をつけられ、伊勢市内にも広まって、伊勢うどんと並ぶ伊勢志摩の顔になりました。
三重農山漁村の郷土料理百選と、ふるさとおにぎり百選に選ばれています。令和7年度には、文化庁の「100年フード」の伝統部門(江戸時代から続く郷土の料理)に認定され、審査した有識者の評価がとくに高かった3件に贈られる「有識者特別賞」も受けました。

志摩で食べる、家で混ぜる

三重志摩の手こね寿司は、土地によって材料も作り方もさまざま。志摩市商工会は、市内の20軒の店を集めた「志摩のてこね寿司」のマップを作っています。伊勢・志摩を中心に、多くの料理店の品書きに並ぶ一品です。
志摩の店の手こね寿司チャーハン
志摩の店の手こね寿司チャーハン写真: Miyuki Meinaka(CC BY-SA 4.0)
三重志摩には、手こね寿司を炒めた「手こねチャーハン」まであります。海女が漁で冷えた体を焚き火で温めるとき、おにぎりにした手こね寿司をあぶって食べたのが始まり。2018年の時点では家庭料理で、店では裏メニューくらいのものでしたが、2021年までには品書きに載せる店が現れ、オリーブオイルで炒めて出しています。炒めると魚の生臭さと酸味がやわらぎ、子どもや海外から来た人にも好評です。
三重手早く作れておいしいので、共働きの家や子育て中の家でも喜ばれます。人が集まる日には、家でも木桶を出して作り、宴会の席にも上がる。
4人分で、カツオ1/4身、米1と1/2カップ(240g)。米は昆布10cmを入れ、1割増しの水で炊き、沸く直前に昆布を取り出す。炊けたら砂糖大さじ3・酢大さじ4・塩小さじ1を合わせてシャリにし、冷ましておく。醤油大さじ5とみりん大さじ2を煮立てて冷まし、そぎ切りにしたカツオを5〜30分漬ける。時間はカツオの鮮度で加減します。シャリに漬け汁をふりかけてカツオをのせ、千切りの青じそ8枚、しょうが1かけ、海苔1/2枚を散らせばできあがり。

『江戸前の旬』では

読者の感想によれば、16巻でカツオの寿司を頼まれた旬が作るのが、手こね寿司。酒盗を使ったヅケ地に漬け、上にタタキと万能ネギをたっぷりのせます。45巻にも、カツオの手こね寿司が出てきます。

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