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塩竈の寿司

仙台と松島のあいだの港町、塩竈。神社の門前町で、魚の町で、寿司屋の多い町です。その寿司を支える生のマグロは、どんな船で、どうやって港に着くのか。秋だけの名前を持つメバチの話まで。

門前町で、港町

塩竈は、二つの顔を持って栄えた町です。ひとつは奥州一の宮、鹽竈神社の門前町。もうひとつは港町。古くは陸奥の国府、多賀城への荷揚げ港で、藩政時代は伊達藩の港、明治からは国内有数の港湾都市、近代に入ると近海・遠洋漁業の基地になりました。新鮮な魚介が豊富で、港町独特の食文化が育ちました。寿司屋の数も多く、笹かまぼこや揚げかまぼこといった練り物の生産量も日本有数です。
塩竈市魚市場は、かつて「東洋一の魚市場」と呼ばれ、北洋漁業の基地として栄えました。たび重なる漁業規制で水揚げは減りましたが、近海の生鮮マグロだけは、いまも全国有数。市の紹介には「近海生マグロ水揚げ高日本一」とあります。揚がったマグロはエラと内臓を抜いて重さを量り、セリにかけられ、北は札幌、南は関東、関西、福岡までトラックで運ばれていきます。

生船が運ぶマグロ

凍らせずにマグロを運ぶ船は「生船」。2001年、塩竈第一中学校の授業に招かれた高知県室戸の延縄船の船頭が、その違いを話しています。遠洋のマグロ船は凍結船で、魚をマイナス60〜70℃で凍らせ、1年から1年半かけて航海して帰ってくる。生船は凍らせません。1航海は20日から1か月ほどで、海水と真水を半分ずつ混ぜた水を、凍る直前の温度まで冷やし、マグロをマイナス0.5〜0.7℃ほどの凍るか凍らないかの温度で持ち帰る。延縄は約80キロメートル、枝縄は2,000〜2,200本。縄を入れるのに4時間、揚げるのに12時間かかります。
その船が、高知、宮崎、大分と、全国から三陸沖へやってきます。室戸の船なら、7月から12月の末まで塩釜港を基地にして、主にメバチを狙う。黒潮と親潮がぶつかって動物プランクトンが増え、それを食べる小魚が集まり、その小魚をマグロが追ってくる海だからです。なぜ塩竈に揚げるのか。三陸沖の漁場からいちばん近い港のひとつであること、そして町の人に親切にされると情が移ること。塩竈は「第2の母港」なのだ、と。呼び分けもあって、この季節なら40キロ以上をメバチ、20〜40キロのものを「ダルマ」と呼ぶ。

秋だけの「ひがしもの」

秋のメバチには、特別な名前がつきます。「三陸塩竈ひがしもの」。条件は四つ。親潮と黒潮がぶつかる三陸東沖の漁場で、延縄でとれた40キロ以上のメバチであること。塩竈市魚市場に揚がった、秋口から冬場だけのものであること。冷凍していない、天然の生のメバチであること。そして鮮度、色つや、脂のり、うまみを兼ね備え、塩竈の目利きである仲買人が誇りと確信をもって出せるものであること。9月から12月のメバチは、サンマやイワシをたっぷり食べて、赤身にまで良い脂を蓄えています。
名前は平成18年に塩竈市水産振興協議会が商標登録し、平成20年からは塩釜市魚市場買受人協同組合が取り組みの中心になりました。毎年、販売開始の日を決めて売り出し、年末に終える。例年は9月の中旬に始まり、2026年は9月10日からでした。ところが2025年は、海水温の上昇などで、ひがしものとして売れる質のメバチがまとまって揚がる見込みが立たず、協同組合は開始を10月3日に延ばすと知らせました。季節限定の名前である以上、海の都合には逆らえません。
ひがしものの季節には、寿司屋も動きます。市内の寿司海道に加わる10店が、親方自慢のオリジナルの品を出す「親方特薦 ひがしものまぐろ祭り」。2026年は9月12日から11月30日まで。寿司屋に座らなくても、塩釜水産物仲卸市場には約100の店が並び、新鮮なマグロや三陸の魚介を一般の客も卸値で買える。買ったものを自分で盛る「マイ海鮮丼コーナー」まであります。

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