寿司のデータベース

品書き / 郷土寿司

箱寿司

はこずし/Osaka box sushi (Hakozushi)

縦横二寸六分(約8.5cm)の木の箱にシャリと具を詰め、押し固めて切り分ける大阪の寿司です。玉子焼き、エビ、穴子、小ダイと、下ごしらえした具が一口ずつ並ぶ姿から、「二寸六分の懐石」の名がある。握ってすぐ食べる江戸前とは逆に、時間をおいて味をなじませる寿司です。

箱で押し抜いた大阪の押し寿司、バッテラ
箱で押し抜いた大阪の押し寿司、バッテラ写真: Kanko* from Nagasaki, Japan(CC BY 2.0)

重石ではなく、両手で押す

押し寿司の木型
押し寿司の木型写真: Chris 73(CC BY-SA 3.0)
大阪箱寿司の原点は、重石ではなく両手。寿司を両手で押して「漬ける」のが大阪の箱寿司です。だから押し型は、両手でぎゅっと押せるよう、檜で太く作る。大きさは縦横二寸六分、およそ8.5cm。大事に扱えば20年はもつ道具ですが、木型を作る職人は少なくなりました。
大阪小さな箱の中に、一口大の寿司が色とりどりに並ぶ。穴子、厚焼きの玉子、小ダイ、エビをシャリにのせ、あいだに椎茸や焼き海苔を挟んで押します。その見た目から付いた呼び名が「二寸六分の懐石」。
箱寿司は、作りたてがいちばん、という寿司ではありません。空気を押し出して固めてあるので日持ちがよく、時間がたっても風味が落ちない。むしろしばらくおいたほうが、シャリと具の味がなじんでおいしくなります。握ってすぐ食べる江戸前とは、ここが正反対です。

船場の旦那衆と、芝居の幕間

大阪もともと大阪の庶民が食べていたのは、サバやアジといった大衆魚の押し寿司でした。そこへ明治時代、船場の寿司店「吉野寿司」が、タイ、エビ、穴子といった高級な材料をふんだんに使った箱寿司を作り出す。吉野寿司は天保12年の創業で、いまも大阪・淡路町で箱寿司を作っています。明治から大正の初めには、「寿司券」という商品券まで出していました。
大阪箱寿司は、芝居見物の幕間の弁当や手土産にうってつけでした。船場の旦那衆がこぞって贔屓にし、やがてもてなし料理の定番として大阪じゅうに知られるようになります。いまも歌舞伎や落語を見に行くお供に、ハレの日のごちそうに、大阪の人に好まれています。
大阪東京で寿司といえば握り。大阪の寿司の代表は、飯と具を重ねて押し固める押し寿司です。押し寿司、巻き寿司、蒸し寿司と、大阪で作られる寿司をまとめて「大阪寿司」と呼び、箱寿司のことを大阪寿司と呼ぶこともあります。押し寿司に太巻き、伊達巻き寿司を盛り合わせて「大阪寿司」として出す店もある。
握りより先に、箱寿司がありました。もとは江戸も京も大坂も押し寿司で、江戸だけがいつのまにか箱寿司をやめて握り一本になった、と書き残しているのが幕末の『守貞漫稿』です。料理書『料理網目調味抄』には、もう「箱寿司に酢を注ぐ」という書き方が出てきます。江戸で握りが現れて大流行するのは、文化・文政年間(1804〜30)ごろ。文政の末には、関西にも「江戸鮓」を売る店ができました。

一日がかりの仕込み

大阪手間は、押す前の仕込みにかかっています。老舗の仕事を見ると、穴子は天然の30cm前後のものを選び、創業から受け継ぐタレをかけて焼く。椎茸は宮崎や大分の肉厚のものを5時間ほどかけて柔らかく炊く。生きた小ダイに塩をあて、酢で締めてひと晩寝かせる。材料はどれも一日がかりの仕込みです。
大阪「飯に六分の味」と言うくらいで、寿司の味はシャリでほぼ決まる。老舗には、日本晴のような西日本の硬めの米を使う店もあります。噛むほどにうまみが出て、持ち帰って時間がたっても味が変わらない米です。
大阪魚を酢で締め、椎茸をじっくり煮込み、と仕込みに時間と手間がかかるため、箱寿司を出す店は減ってきています。技と味をつないでいるのは、いまも町に残る寿司店の努力です。

バッテラと、家で押す三段

大阪江戸の握りに対して、関西の寿司は箱や木枠で押し抜く押し寿司が主流です。なかでもいちばん身近なのが、酢で締めたサバと白板昆布をシャリに重ねて押したバッテラ。押し型も、しだいに四角い箱の形が使われるようになりました。醤油をつけずに食べられるので、持ち帰りや手土産にも重宝されます。大阪では、白板昆布そのものを「バッテラ昆布」と呼ぶこともある。
大阪家で作る三段の箱寿司。シャリは米3カップを昆布と炊き、酢大さじ4・砂糖大さじ1.5・塩小さじ1で合わせる。エビは串を打って塩ゆでし、合わせ酢に5〜6分漬けて2枚にそぐ。玉子は2cmほどの厚さに焼く。焼き穴子は煮汁で10分ほど煮て、汁につけたまま冷ます。戻した干し椎茸は煮てみじん切りに。型を水でぬらし、酢水でぬらした葉らんを敷いたら、一段目はシャリに玉子焼きとエビ。二段目はシャリのあいだに椎茸を散らして穴子。三段目はシャリのあいだに焼き海苔を敷いて小ダイの笹漬け。それぞれ葉らんをのせてふたをし、枠ごと均等に力をかけて押す。6等分に切って、1種類ずつ盛りつけます。

『江戸前の旬』では

読者の感想によれば、34巻に鰆の箱寿司、79巻には愛知県渥美半島のあさりの押し寿司が出てきます。

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