穴子
あなご/Conger eel
江戸前握りの屋台骨は「煮もの」。その代表が穴子です。寿司店が使うのは主にマアナゴで、関東では煮て、関西では焼くのが基本。煮穴子の持ち味は、ふわっ、とろっとした食感です。煮穴子に塗る詰めも、もとをたどれば穴子の煮汁を煮詰めたもの。そして「寿司屋100軒あれば穴子の仕込みは100通り」。煮方ひとつに、店の顔がそのまま出るタネです。


旬
穴子
旬は晩春から初秋。水がぬるむと餌をよく食べ、脂をため込みます。広島では7〜8月、あるいは脂ののる11月のあなごがうまい。
旬 出回る時期
煮るか、焼くか
開き方も東西で違います。関東は背開き。武士の町だった江戸では、腹から開くのは切腹に通じるといって嫌われました。背びれや腹びれ、頭を落とし、ぬめりを取ってから煮るので、口に入れるとほどけていく。江戸前の穴子は、とりわけ羽田のものが好まれ、握りの元祖といわれる与兵衛鮓でも握られていました。関西は腹開き。こちらは「腹を割って話す」に通じて縁起がいい、というのが関西の言い分です。一本まるごと直火であぶり、棒寿司や巻き寿司の芯、ちらしの上にのせる。関西では瀬戸内、とくに姫路の穴子が最高とされました。

広島江戸時代文政期の広島藩の地誌『芸藩通志』にも、アナゴはメバルやキスとともに、このあたりの産で味がよいと記されています。潮の速い廿日市市大野瀬戸のあたりでとれるものは「瀬戸のあなご」と呼ばれる。
100軒あれば、仕込みも100通り
「寿司屋100軒あれば穴子の仕込みは100通り」。誇張ではありません。同じ店で修業した職人どうしでさえ、使う穴子の大きさも味わいも違ってくる。店を食べ歩くほど楽しくなるタネです。
江戸前握りの中核は、干瓢・ハマグリ・穴子といった煮ものです。いまは生のタネが主役になりました。それでも、いや、だからこそ、煮ものの穴子はなくてはならない。
東京穴子を看板にする店の仕事は、こうです。背開きにしたら、何度も洗ってぬめりを落とす。それをたっぷりの煮汁で、身が崩れないように煮上げる。ふわっ、とろっとした食感を出せるかどうかは、火加減ひとつにかかっています。
煮上がっても、すぐには引き上げません。そのまま鍋で冷まし、手を入れられるくらいになったら、壊れ物を扱うように、そっとバットへ上げます。
東京八王子には、穴子を2時間ほど煮る古い江戸前の店があります。それだけ煮ても、皮はしっかり残る。炙って出すことを計算した煮方で、出前で時間がたっても味が落ちません。
出す前に煮穴子を軽く炙るか、炙らないか。これは煮方との兼ね合いで決まります。手に取るだけで崩れるほど柔らかく煮上げる店もあれば、マアナゴの身質をしっかり残して煮る店もある。
詰めは穴子の煮汁から
詰めの名は、もともと煮穴子を作るときの煮汁を煮詰めて作ったことから。
煮穴子に詰めを一はけ塗るか、塗らないか。ここは好みで決めてかまいません。通ぶる話ではないので、その日の気分で頼めばいい。
煮アナゴをスダチと塩で握る江戸前の店もあります。もちろん詰めで握る店も。
煮立て、めそ、洗い
煮上がったばかりの穴子を「煮立て穴子」と呼びます。口に運ぶあいだにも崩れてしまうほどの柔らかさで、市場の寿司店には、この時間を狙ってカウンターに座る客がいるほどです。
35cm以下の小さなマアナゴは「めそ」。天ぷらでは好んで使う職人がいるものの、寿司店では少数派です。小骨が舌に触れないのが、めその持ち味。
マアナゴを三枚に下ろして皮を引き、冷水で洗った「洗い」を握りにする食べ方もあります。ただ、シャリとのなじみはよくありません。
関東の仲卸では、入荷したマアナゴを大きさごとに選り分け直して売ります。上物は、身の締まっていないもの。活け締めにしていない野〆になると、値はぐっと安くなります。
ハカリメとのれそれ
煮穴子は数日もつ
家で手早く煮穴子を作るなら、このやり方です。開いたアナゴのぬめりを取り、湯通しして表面の白いぬめりを除く。水気をきり、残ったひれを切り取る。酒・みりんを煮立ててアルコールを飛ばし、しょうゆで味を決めた地で、短時間さっと煮ます。薄口しょうゆにすれば「白煮」になる。
寿司店のやり方に寄せた家庭版もあります。アナゴを塩で、布を手洗いするように揉み、水で塩気を流して水気をきる。酒・砂糖・醤油・水を沸かし、骨や肝と一緒に煮ます。200〜250gなら10分ほど、大型なら20分ほど。煮えたら鍋止めにして、そのまま冷ます。
うんと柔らかく炊きたいなら、まず皮を上にして湯をかけ、氷水に落として、包丁でぬめりをこそげ取ります。たっぷりの酒・みりん・水で少し煮てから、少量のザラメと醤油を加えて、ことこと炊く。箸で持てないほど柔らかくなったら火を止めます。冷めてからそっとバットに上げ、煮汁はとろっとするまで煮詰めて、上からかける。
煮穴子は数日もちます。たっぷり作れば、1週間ほど楽しめる。食べるときは軽く炙って、山椒かわさびで。冷やすと煮こごるので、煮汁ごと固めて煮こごりにしてもおいしい。
炙った煮穴子を刻み、塩もみしたきゅうりと合わせて甘酢で和えれば「穴ざく(穴きゅう)」。同じことをウナギで作ると「うざく」です。
値段
回転寿司
- くら寿司「あなご」1皿(一皿110円からの店)120円2026-09-25 時点
- くら寿司「特大切り 活〆穴子(一貫)」(一皿110円からの店)270円2026-09-25 時点
- スシロー「煮あなご」1皿(巣本店、税込。店舗により価格が異なる)140円2026-09-29 時点
- スシロー「上穴子」1皿(巣本店、税込。店舗により価格が異なる)180円2026-09-29 時点
- はま寿司「煮あなご」1皿(税込)132円2026-09-29 時点
大衆店
- 築地玉寿司 築地本店「穴子」お好み1貫(税込)440円2026-09-29 時点
- 築地玉寿司 築地本店「穴子一本にぎり」お好み1貫(税込)1,100円2026-09-29 時点
- 築地すし鮮「あなご」おこのみ1貫(税込)378円2026-09-29 時点
- 築地すし鮮「穴子一本にぎり」おこのみ1貫(税込)826円2026-09-29 時点
- すしざんまい「穴子」1個(グランドメニュー、税込)327円2026-09-29 時点
- すしざんまい「上穴子」1個(グランドメニュー、税込)715円2026-09-29 時点
- 梅丘寿司の美登利「元祖穴子(一本付)」(税込。貫数の記載なし。一部店舗は価格が異なる場合あり)880円2026-09-29 時点
- 芦屋 波沙鮓「穴子」にぎり1貫(税込。本体価格800円)880円2026-09-30 時点
- 富山 蛇の目寿司「あなご」にぎり1個(税込。その日の仕入れや季節で変わる)440円2026-09-30 時点
高級店
- 銀座久兵衛 銀座本店・新館のお土産「穴子棒ずし」(税込・税抜の記載なし)3,240円2026-09-29 時点
『江戸前の旬』では
第4話と第5話は、前編と後編の二話続けて「アナゴ」。連載のごく初めから、アナゴは大きな題でした。46巻では、兄妹げんかの仲立ちをした旬が、兄にアナゴの詰めを出します。125巻の思い出の味の一つは、アナゴのひつまぶしです。
84巻には「アナゴと白エビ」、92巻には「アナゴの琥珀寿司」と題した話があります。
土地の呼び名
| 呼び名 | 土地 | 種類・メモ |
|---|---|---|
| メジロ(目白) | 静岡県浜名湖・愛知県三河湾周辺・名古屋 | |
| ハカリメ(秤目) | 東京都・神奈川県三崎・江ノ島 | 体側に並ぶ白い点が秤の目盛りのように見えることから。 |
| ホンアナゴ(本アナゴ) | 東京都・関東・愛媛県宇和島 | |
| トウヘイ | 千葉県勝浦・広島市 | 大型。広島市では500g以上。 |
| デンスケ | 兵庫県明石・姫路市家島 | 大型。明石では300g以上。 |
| ハモ・ハム | 青森県・宮城県石巻・福島県いわき市・山形県鶴岡市など | 釣り上げると噛みつくので「食む」からとも。 |
| ビービー | 広島市 | 小型。 |
| のれそれ | 高知 | 稚魚(葉形仔魚)の呼び名。関西では「べらた」。 |
| ハナタレ | 兵庫県明石市 | 稚魚の呼び名。 |
| めそ | 関東の寿司店・市場 | 35cm以下の小さいもの。 |
次に読みたくなる
穴子の寿司ばなし
穴子とつながるタネ
同じころに旬を迎えるタネ
出てきた寿司ことば
- 詰め穴子などを煮た汁を煮詰めて作る、甘くとろりとしたタレ。江戸前では、煮穴子や煮蛤、シャコといった「煮物」に塗ります。単に「詰め」とも呼び、作り方は店ごとにまるで違う。
- 江戸前もとは江戸城の目の前の海のこと。埋め立てで元の海が消えるにつれて範囲が広がり、いまは東京湾全体を指します。寿司の世界では、その海の魚介に仕事を施して握る流儀の名でもあります。
- 握り寿司シャリの上にタネをのせて握る、日本を代表する寿司。始まりは魚を飯で発酵させる保存食で、酢を使う早ずしを経て、江戸後期の屋台で今の形になりました。当時の握りは、今の2〜3倍の大きさです。
- おまかせ何をどの順で握るかを、職人に任せる頼み方。その日の仕入れを見て、職人が1貫目から最後までの流れを組み立てます。昭和の初めごろまでは、こちらが当たり前の頼み方でした。
- 醤油のつけ方醤油はタネにつけるか、シャリにつけるか。寿司屋の組合の答えは、タネの端に少しだけ。シャリにつけると崩れるし、煮ものや玉子のように、そもそもつけない寿司もあります。
- 食べる順番淡白なものから、味の濃いものへ。白身やイカで始めて、トロやアナゴへ進む。ひとつの目安ではあっても、決まりがあるわけではありません。好きに食べていい、というのが寿司屋の組合の答えです。
このページの出典(35件)
- マアナゴ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 穴子/マアナゴ(55貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 煮穴子/マアナゴ(812貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 「㐂寿司」の矜恃と穴子1000尾分のエキスが詰まったツメの秘密。(dancyu)2026-09-25 閲覧
- 鮨職人の技(魚竹寿し)2026-09-25 閲覧
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- 煮立て穴子/マアナゴ|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 煮穴子横川町鮨忠/マアナゴ|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 煮穴子/マアナゴ(795貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 「㐂寿司」の門外不出のツメづくりに密着。(dancyu)2026-09-25 閲覧
- 江戸前鮨(魚竹寿し)2026-09-25 閲覧
- 穴子めそ/マアナゴ|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- マアナゴ洗い|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- のれそれ/マアナゴ|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 【さかな料理】煮穴子料理(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
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- とても久しぶり、に作る、穴子の柔らか炊き(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
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- 江戸前の旬 84巻(出版社内容情報・収録話)|紀伊國屋書店(紀伊國屋書店)2026-10-11 閲覧
- 江戸前の旬 92巻(出版社内容情報・収録話)|紀伊國屋書店(紀伊國屋書店)2026-10-11 閲覧
