寿司のデータベース

品書き / 煮物・玉子

穴子

あなご/Conger eel

江戸前握りの屋台骨は「煮もの」。その代表が穴子です。寿司店が使うのは主にマアナゴで、関東では煮て、関西では焼くのが基本。煮穴子の持ち味は、ふわっ、とろっとした食感です。煮穴子に塗る詰めも、もとをたどれば穴子の煮汁を煮詰めたもの。そして「寿司屋100軒あれば穴子の仕込みは100通り」。煮方ひとつに、店の顔がそのまま出るタネです。

マアナゴ
マアナゴ写真: Daiju Azuma(CC BY-SA 2.5)
穴子の握り
穴子の握り写真: Mikkabie(CC BY-SA 4.0)

旬

旬は晩春から初秋。水がぬるむと餌をよく食べ、脂をため込みます。広島では7〜8月、あるいは脂ののる11月のあなごがうまい。

旬 出回る時期

煮るか、焼くか

穴子の白焼き
穴子の白焼き写真: nesnad(CC BY 3.0)
関東は煮て、関西は焼く。穴子は、東西で仕事がくっきり分かれるタネです。寿司になっても同じで、関西なら穴子の棒寿司や押し寿司、東京なら握り。
開き方も東西で違います。関東は背開き。武士の町だった江戸では、腹から開くのは切腹に通じるといって嫌われました。背びれや腹びれ、頭を落とし、ぬめりを取ってから煮るので、口に入れるとほどけていく。江戸前の穴子は、とりわけ羽田のものが好まれ、握りの元祖といわれる与兵衛鮓でも握られていました。関西は腹開き。こちらは「腹を割って話す」に通じて縁起がいい、というのが関西の言い分です。一本まるごと直火であぶり、棒寿司や巻き寿司の芯、ちらしの上にのせる。関西では瀬戸内、とくに姫路の穴子が最高とされました。
兵庫焼き穴子の本場は、兵庫県明石。三重県から和歌山県、大阪府、瀬戸内海のまわりでも、焼き穴子が盛んに作られています。
あなごめし
あなごめし写真: ノボホショコロトソ(CC BY 4.0)
広島広島県宮島の名物「あなご飯」は、蒲焼きにしたあなごをそぎ切りにして、だしで炊いたご飯の上に敷き詰めたもの。始まりは1901年、山陽鉄道の開通から4年後、宮島口駅の近くで駅弁として売り出されたことでした。
広島江戸時代文政期の広島藩の地誌『芸藩通志』にも、アナゴはメバルやキスとともに、このあたりの産で味がよいと記されています。潮の速い廿日市市大野瀬戸のあたりでとれるものは「瀬戸のあなご」と呼ばれる。
香川県の小豆島には、漁師の家の穴子の寿司があります。呼び名は「きずし」。穴子は煮も焼きもせず、生のまま細かく切って酢で締め、シャリに混ぜる。上に錦糸玉子や紅生姜、海苔をかけて食べます。

100軒あれば、仕込みも100通り

「寿司屋100軒あれば穴子の仕込みは100通り」。誇張ではありません。同じ店で修業した職人どうしでさえ、使う穴子の大きさも味わいも違ってくる。店を食べ歩くほど楽しくなるタネです。
江戸前握りの中核は、干瓢・ハマグリ・穴子といった煮ものです。いまは生のタネが主役になりました。それでも、いや、だからこそ、煮ものの穴子はなくてはならない。
東京穴子を看板にする店の仕事は、こうです。背開きにしたら、何度も洗ってぬめりを落とす。それをたっぷりの煮汁で、身が崩れないように煮上げる。ふわっ、とろっとした食感を出せるかどうかは、火加減ひとつにかかっています。
煮上がっても、すぐには引き上げません。そのまま鍋で冷まし、手を入れられるくらいになったら、壊れ物を扱うように、そっとバットへ上げます。
東京八王子には、穴子を2時間ほど煮る古い江戸前の店があります。それだけ煮ても、皮はしっかり残る。炙って出すことを計算した煮方で、出前で時間がたっても味が落ちません。
出す前に煮穴子を軽く炙るか、炙らないか。これは煮方との兼ね合いで決まります。手に取るだけで崩れるほど柔らかく煮上げる店もあれば、マアナゴの身質をしっかり残して煮る店もある。

詰めは穴子の煮汁から

詰めの名は、もともと煮穴子を作るときの煮汁を煮詰めて作ったことから。
煮穴子に詰めを一はけ塗るか、塗らないか。ここは好みで決めてかまいません。通ぶる話ではないので、その日の気分で頼めばいい。
煮アナゴをスダチと塩で握る江戸前の店もあります。もちろん詰めで握る店も。

煮立て、めそ、洗い

煮上がったばかりの穴子を「煮立て穴子」と呼びます。口に運ぶあいだにも崩れてしまうほどの柔らかさで、市場の寿司店には、この時間を狙ってカウンターに座る客がいるほどです。
35cm以下の小さなマアナゴは「めそ」。天ぷらでは好んで使う職人がいるものの、寿司店では少数派です。小骨が舌に触れないのが、めその持ち味。
マアナゴを三枚に下ろして皮を引き、冷水で洗った「洗い」を握りにする食べ方もあります。ただ、シャリとのなじみはよくありません。
関東の仲卸では、入荷したマアナゴを大きさごとに選り分け直して売ります。上物は、身の締まっていないもの。活け締めにしていない野〆になると、値はぐっと安くなります。

ハカリメとのれそれ

「穴子」の名は、夜行性で、昼は砂泥の穴や筒状のものにもぐっているから。「穴籠(あなごもり)」が縮まったという見方もあります。
東京や三崎の呼び名「ハカリメ(秤目)」がいい。体の横に並ぶ白い点を、秤の目盛りに見立てた名前です。
高知マアナゴの稚魚は、高知では「のれそれ」、関西では「べらた」。鮮度がよければ、生で食べます。
温暖化で、穴子の産地は北へ上がっています。もともと水揚げの少なかった日本海や東北、北海道でも増えてきました。一方で国内の漁獲は近年減っていて、中国や朝鮮半島からの輸入も多い。

煮穴子は数日もつ

家で手早く煮穴子を作るなら、このやり方です。開いたアナゴのぬめりを取り、湯通しして表面の白いぬめりを除く。水気をきり、残ったひれを切り取る。酒・みりんを煮立ててアルコールを飛ばし、しょうゆで味を決めた地で、短時間さっと煮ます。薄口しょうゆにすれば「白煮」になる。
寿司店のやり方に寄せた家庭版もあります。アナゴを塩で、布を手洗いするように揉み、水で塩気を流して水気をきる。酒・砂糖・醤油・水を沸かし、骨や肝と一緒に煮ます。200〜250gなら10分ほど、大型なら20分ほど。煮えたら鍋止めにして、そのまま冷ます。
うんと柔らかく炊きたいなら、まず皮を上にして湯をかけ、氷水に落として、包丁でぬめりをこそげ取ります。たっぷりの酒・みりん・水で少し煮てから、少量のザラメと醤油を加えて、ことこと炊く。箸で持てないほど柔らかくなったら火を止めます。冷めてからそっとバットに上げ、煮汁はとろっとするまで煮詰めて、上からかける。
煮穴子は数日もちます。たっぷり作れば、1週間ほど楽しめる。食べるときは軽く炙って、山椒かわさびで。冷やすと煮こごるので、煮汁ごと固めて煮こごりにしてもおいしい。
炙った煮穴子を刻み、塩もみしたきゅうりと合わせて甘酢で和えれば「穴ざく(穴きゅう)」。同じことをウナギで作ると「うざく」です。

値段

回転寿司・街の寿司屋・高級店のおまかせを並べて比べる

回転寿司

  • くら寿司「あなご」1皿(一皿110円からの店)120円2026-09-25 時点
  • くら寿司「特大切り 活〆穴子(一貫)」(一皿110円からの店)270円2026-09-25 時点
  • スシロー「煮あなご」1皿(巣本店、税込。店舗により価格が異なる)140円2026-09-29 時点
  • スシロー「上穴子」1皿(巣本店、税込。店舗により価格が異なる)180円2026-09-29 時点
  • はま寿司「煮あなご」1皿(税込)132円2026-09-29 時点

大衆店

  • 築地玉寿司 築地本店「穴子」お好み1貫(税込)440円2026-09-29 時点
  • 築地玉寿司 築地本店「穴子一本にぎり」お好み1貫(税込)1,100円2026-09-29 時点
  • 築地すし鮮「あなご」おこのみ1貫(税込)378円2026-09-29 時点
  • 築地すし鮮「穴子一本にぎり」おこのみ1貫(税込)826円2026-09-29 時点
  • すしざんまい「穴子」1個(グランドメニュー、税込)327円2026-09-29 時点
  • すしざんまい「上穴子」1個(グランドメニュー、税込)715円2026-09-29 時点
  • 梅丘寿司の美登利「元祖穴子(一本付)」(税込。貫数の記載なし。一部店舗は価格が異なる場合あり)880円2026-09-29 時点
  • 芦屋 波沙鮓「穴子」にぎり1貫(税込。本体価格800円)880円2026-09-30 時点
  • 富山 蛇の目寿司「あなご」にぎり1個(税込。その日の仕入れや季節で変わる)440円2026-09-30 時点

高級店

  • 銀座久兵衛 銀座本店・新館のお土産「穴子棒ずし」(税込・税抜の記載なし)3,240円2026-09-29 時点

『江戸前の旬』では

第4話と第5話は、前編と後編の二話続けて「アナゴ」。連載のごく初めから、アナゴは大きな題でした。46巻では、兄妹げんかの仲立ちをした旬が、兄にアナゴの詰めを出します。125巻の思い出の味の一つは、アナゴのひつまぶしです。

84巻には「アナゴと白エビ」、92巻には「アナゴの琥珀寿司」と題した話があります。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
メジロ(目白)静岡県浜名湖・愛知県三河湾周辺・名古屋
ハカリメ(秤目)東京都・神奈川県三崎・江ノ島体側に並ぶ白い点が秤の目盛りのように見えることから。
ホンアナゴ(本アナゴ)東京都・関東・愛媛県宇和島
トウヘイ千葉県勝浦・広島市大型。広島市では500g以上。
デンスケ兵庫県明石・姫路市家島大型。明石では300g以上。
ハモ・ハム青森県・宮城県石巻・福島県いわき市・山形県鶴岡市など釣り上げると噛みつくので「食む」からとも。
ビービー広島市小型。
のれそれ高知稚魚(葉形仔魚)の呼び名。関西では「べらた」。
ハナタレ兵庫県明石市稚魚の呼び名。
めそ関東の寿司店・市場35cm以下の小さいもの。

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