寿司のデータベース

品書き / 魚卵・ウニ

あん肝鮟肝

あんきも/Monkfish liver (Ankimo)

アンコウの肝です。江戸時代には五大珍味「三鳥二魚」のひとつ、いまは「海のフォアグラ」。寿司屋では血を抜いて酒と塩で蒸し、軍艦にのせます。吊るし切り、七つ道具、どぶ汁と、アンコウそのものの話もおもしろい。

キアンコウ(葛西臨海水族園)
キアンコウ(葛西臨海水族園)写真: Geekgecko(CC BY 4.0)
あん肝の軍艦巻き
あん肝の軍艦巻き写真: takaokun(CC BY 2.0)

旬

水揚げは11月から3月。肝が肥えるのは12月から2月。

旬 出回る時期

三鳥二魚、海のフォアグラ

江戸時代、アンコウの肝は五大珍味「三鳥二魚」に数えられていました。ひばり、ばん、鶴、そしてアンコウと鯛。鳥と並ぶ格の高い魚の味、それがあん肝です。
アンコウは捨てるところがない魚ですが、いちばん珍重されるのが肝。淡白な身とはまるで違う濃厚さで、よく肥えて脂ののった肝はフォアグラと比べられるほどです。肝だけで流通もしますし、肝だけの缶詰まであります。
寒い時期は国産だけでは需要をまかなえず、中国やアメリカからも入ってきます。アメリカからは肝だけの輸入もありますが、これは同じ属の別種、アメリカンアングラーフィッシュのものです。

血を抜いて、酒と塩で蒸す

寿司屋のあん肝は、仕込みで決まります。表面の皮をむき、細かい血管を取り除いて血を抜き、酒と塩で洗う。水を切って蒸し上げたら、味つけの調味料は使わない店もある。鮮度がよければ酒と塩だけで十分だからです。軍艦にしてもみじおろしとあさつきを添えれば、ぷるんとした弾力が口の温度でとけて、シャリをクリームのソースのように包みます。
蒸し方は店によってさまざまです。血管や皮膜をていねいに取ったら、酒に1時間ほど漬け込み、ホイルで巻いて蒸し上げる方法もあります。舌にのせるとほろりとつぶれ、濃い味のなかに甘みと独特の渋み。
身の握りに、蒸した肝をのせる手もあります。アンコウの身は刺身だと味が薄いのですが、ほんの少し熱湯にくぐらせて霜降りにすると、ぐっと味が出てくる。そこに肝をのせ、大根おろしとポン酢で。フグの握りに似た味わいで、食べ始めたら止まりません。
青森青森には、キアンコウの肝を津軽赤みそで和えた「とも和え」があります。ゆでたアンコウを、みそや酒粕で味をつけた肝で和えたもの。肝は濃くて酒の肴向きですが、とも和えにすると食べやすくなり、軍艦にしてもじつにうまい。

吊るして切る、七つ道具

あんこうの吊るし切り(茨城県大洗町)
あんこうの吊るし切り(茨城県大洗町)写真: Miyuki Meinaka(CC BY-SA 4.0)
茨城アンコウのさばき方は「吊るし切り」。『和漢三才図会』(1712)に手順が残っています。縄を下唇に通して梁に吊るし、口から水を5、6升注ぐ。喉から皮をはいで肝を取り、最後に刀で胃袋を突くと、はじめに入れた水が口からほとばしり出る。水戸市の市場ではいまもこの吊るし切りが行われ、茨城では見物のイベントまで開かれます。
アンコウの「七つ道具」は、身、皮、水袋(胃)、キモ(肝臓)、ヌノ(卵巣)、えら、トモ(ヒレ)。骨とあご、目玉以外は余さず食べる魚です。
頭の上の背びれのとげの先に、ひらひらした疑似餌(エスカ)がついていて、これを動かして小魚をおびき寄せます。まるでルアー釣り。英名のアングラーフィッシュもここから。雌は1.5mを超えるのに、雄は60cmほどにしかならず、市場に出回るのはほとんどが大きな雌です。
一般に「あんこう」「本あんこう」として出回るのは、キアンコウ。標準和名のアンコウは、市場では「くつあんこう」と呼ばれる別の種です。見分けどころは口の中で、アンコウには白い斑紋があり、キアンコウにはありません。

どぶ汁、共酢、あんこう鍋

茨城北茨城の「どぶ汁」は、平潟の漁師が船の上で暖をとるために食べ始めたもの。当時アンコウは売り物としてたいした値がつかない魚でした。肝を鍋で直接炒りつけ、味噌を加え、水は一滴も使わずアンコウと野菜から出る水分だけで煮込む。肝が溶けて汁がどぶのように濁るから、この名が付いたとも。
茨城茨城県特有の食べ方が「あんこうの共酢」。ゆでた七つ道具を、酢味噌に肝を練り合わせたたれにつけて食べます。肝のことを「とも」とも呼ぶので、共酢。
あんこう鍋(茨城県水戸市)
あんこう鍋(茨城県水戸市)写真: Hykw-a4(CC BY-SA 3.0)
あんこう鍋は、茨城では肝を溶かし込んだ味噌仕立て、江戸・東京では醤油仕立て。神田須田町のあんこう鍋の老舗『伊勢源』は天保元年(1831)の創業。江戸湾でも揚がったので、江戸の町では安い庶民的な味だったようです。
「東にマナガツオなく、西にアンコウなし」。昔は西日本ではアンコウを食べず、東京から常磐にかけての東日本で盛んに食べてきました。いまでは「西のフグ、東のアンコウ」と並び称されます。
相撲の「あんこ型」は、丸く太った力士のこと。もとはアンコウのような体形、という意味です。姿が楽器の琵琶に似ているから「琵琶魚」、口が蝦蟇のようだから「蝦蟇魚」と書いた古い本もあります。

台所のあん肝

家で作るなら、肝の皮膜と血管をていねいに取り、酒に漬けてから、ホイルで巻いて蒸し上げます。切ってもみじおろしとポン酢、あるいはわさび醤油で。
酒の肴にもうひと工夫するなら、蒸したあん肝をバターでさっとソテーして、醤油を垂らす。フォアグラにも負けない一品になります。
身や皮、肝が手に入ったら、みそ汁に。だしで煮てアクをよく引き、酒とみそで味をつけるだけで、アンコウからこくのあるだしが出ます。

旬のはなし

水揚げは11月から3月。肝がいちばん肥えるのは12月から2月です。江戸時代の『魚鑑』にも「寒中その価尤貴し」、寒くなるほど値が上がるとあります。

値段

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大衆店

  • 梅丘寿司の美登利「あん肝」(税込。貫数の記載なし。一部店舗は価格が異なる場合あり)275円2026-09-29 時点

『江戸前の旬』では

読者の感想によれば、57巻に、ネギトロ巻きに見立てた「ネギあん肝巻き」が出てきます。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
ホンアンコウ(本あんこう)市場(全国)
アカアンコウ静岡県土肥

次に読みたくなる

あん肝とつながるタネ

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