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品書き / 貝など

ハマグリ蛤

はまぐり/Hard clam (Hamaguri)

ハマグリは、生では握らない貝です。ゆでて、煮汁に漬けて、詰めを塗る。江戸前の「煮はま」は仕込みに手間がかかりすぎて、出す店がめっきり減りました。市場で「ハマグリ」と呼ばれる貝の多くは、チョウセンハマグリやシナハマグリ。標準和名のハマグリは、絶滅危惧種になっています。

ハマグリ(熊本県産)
ハマグリ(熊本県産)写真: Almandine(CC BY-SA 3.0)
煮蛤の握り
煮蛤の握り写真: RuinDig/Yuki Uchida(CC BY 4.0)

旬

ハマグリ
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旨さの山は節分からひと月。出回る量の山は、ひな祭り前の1週間前後。

旬 出回る時期

種類

ハマグリ

標準和名のハマグリ。淡水が流れ込む内湾の干潟にすむ貝で、江戸前でさかんにとれたのはこれ。いまは手に入れにくく、絶滅危惧II類。

チョウセンハマグリ

別名 地ハマグリ、バチハマ、汀線蛤

九十九里や鹿島灘など外洋の砂浜の貝。名前の響きに反して日本の在来種で、国内に出回るハマグリ類の4分の3を占めます。

シナハマグリ

中国や韓国から入ってくる近縁種。「国産」と書かれていても、三重県などで畜養し直したものがあります。

「煮蛤ちょうだい」と言える客

東京「煮蛤ちょうだい」。ひと通り食べたあとにこう声がかかると、この人は本当に鮨が好きなんだなと嬉しくなる。人形町「㐂寿司」の四代目、油井一浩さんの言葉です。昔は当たり前の種だった蛤も、いまは仕込みに手間のかかる一貫になりました。
江戸前握りの芯にあるのは、干瓢、ハマグリ、穴子といった煮もの。ハマグリは生で握る貝ではありません。煮て、つゆに漬けて、はじめて寿司ダネになる。だから職人の仕事が、味と食感をそのまま決めます。
手間がかかりすぎて、いまどき煮はまを出す店はめったにありません。「これは手間がかかりすぎだね。一人雇わなくちゃいけない」とこぼす寿司屋もいるほどです。味つけはあくまで薄く、身は軟らかく。上品な貝の旨みを味わう、春にぜひ食べたい一貫です。

串を通して、洗って、ゆでて、漬ける

仕込みはまず、剥き身の水管に竹串を通すところから。串ごと水の中でふり洗いすると、身どうしがこすれず、薄皮も傷まない。それでいて砂や汚れはきれいに落ちます。噛んだときに砂がひと粒でも残れば、すべて台無し。割箸を通して洗う店もあります。
難しいのは、ゆで上げの頃合い。貝は火を入れすぎると固くなる。かといって、日持ちを考えればわたが生煮えでは困る。固くも柔らかくもない一瞬で引き上げ、あとは余熱に任せます。ここは体で覚えるしかない仕事です。
ゆで汁は、春霞がかかったように白く濁ってきます。これが蛤の旨み。このゆで汁に砂糖、醤油、味醂を合わせて「煮づゆ」を作り、ゆでた蛤を半日ほど漬け込む。午前中に漬ければ、その日の夜には店に出せます。握るときは、指でわたを押し出して包丁で水平に開き、仕上げに詰めを塗る。
低い温度でじっくり火を通す方法もあります。60〜65℃で約30分。煮えたら蛤を引き上げ、出汁を漉して半分まで煮詰めます。醤油などを合わせたその地が65℃以下まで下がったら蛤を戻し、半日から1日漬ける。漬け汁に5%のハチミツを加え、5分の1まで煮詰めれば、煮蛤用の詰めにもなります。

その「地ハマグリ」、じつは別の貝

チョウセンハマグリ市場の「地ハマグリ」は、値が張るぶん本物のハマグリだと思いがち。実際は、九十九里や鹿島灘から来る外洋育ちのチョウセンハマグリです。江戸前の干潟でとれた内湾のハマグリに対して「場違い」だから「バチハマ」。
チョウセンハマグリそのバチハマも、れっきとした日本の在来種。「汀線(ちょうせん)蛤」とも書き、朝鮮から来た貝ではありません。かつては外海育ちで固いからと嫌う職人もいました。人形町の老舗が選ぶのは、鹿島灘でとれた殻付き1個約100gのもの。しかも剥き身で仕入れます。殻が立派でも中がスカスカの貝があるから、剥いてみないと分からない。
標準和名のハマグリは、いまや手に入れにくい貝です。干拓と埋め立てで干潟が失われ、1980年代に激減。環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類に入っています。国内に出回るハマグリ類の4分の3はチョウセンハマグリで、ほかに中国や韓国から来るシナハマグリ、東南アジアからのミスハマグリも並びます。

ぐれる、蜃気楼、貝合わせ

「ぐれる」の語源は、なんとハマグリ。殻は向きをそろえないとぴたりと合わない。そこで「はまぐり」をひっくり返した「ぐりはま」が、話が食い違うことを指すようになり、なまって「ぐれはま」。その「ぐれ」が動詞になって「ぐれる」です。
名前は「浜の栗」。正徳2年(1712)の『和漢三才図会』に、浜にいて形が栗に似ているから、とあります。もうひとつ、「クリ」は石のことで、砂の中にいる姿を石にたとえた、という読み方もある。
貝合わせの貝(メトロポリタン美術館)
貝合わせの貝(メトロポリタン美術館)写真: The Metropolitan Museum of Art(CC0)
ハマグリの殻は、もとの対でなければかみ合わない。だから夫婦和合のしるしとして婚礼に使われ、ひな祭りには吸いものが出る。左右の殻を合わせ当てる遊び「貝合わせ」も生まれました。嫁入りには、貝殻360個に源氏物語などの絵を描いた「貝桶」を持たせました。
婚礼の祝い膳にハマグリの吸いものを出す。その発案者として名が残るのが、八代将軍徳川吉宗です。
蜃気楼の「蜃」は、大きなハマグリのこと。ハマグリが吐いた息の中に楼閣が浮かぶと考えられていました。実際、ハマグリは水管の根元から1〜3mもの紐のような粘液を出し、潮の流れに乗って海底から浮き上がって移動します。
魚河岸の符丁に「夏のはまぐり」というのがあります。意味は、ひやかし客。身(見)くさり、貝(買い)くさらず。

桑名で焼き、深川で煮る

桑名の焼きはまぐり
桑名の焼きはまぐり写真: Tempaku44(CC BY-SA 3.0)
三重「その手は桑名の焼きはまぐり」。三重県桑名は、地口の文句になるほどの焼きはまぐりの町です。桑名の浜は木曽三川の淡水と海水がほどよく混ざり、蛤は江戸時代から名物でした。
三重桑名にはもうひとつ、時雨蛤(しぐれはまぐり)があります。産卵前の大きな蛤を選び、刻んだ生姜と一緒に、特製のたまり醤油で煮しめたもの。そのたまりは蛤のエキスがしみた元汁に継ぎ足して作り、店ごとに代々受け継いできました。豊臣秀吉のころには、すでに桑名の貝屋で保存食として食べられていた。いまでは、しょうがを加えた佃煮をまとめて「時雨煮」と呼びます。
蛤を売る店(『絵本名物桑名時雨蛤』より)
蛤を売る店(『絵本名物桑名時雨蛤』より)写真: 松本包高(Public domain)
東京江戸湾は、かつて蛤や浅利の宝庫でした。なかでも最上等は、江戸湾で揚がるハマグリでした。いまの江東区には「深川蛤町」という町名まであった。蛤を味噌で煮てご飯にかける「深川飯」も、この深川の名を冠した名物です。
北朝鮮・南浦には、豪快な貝焼きがあります。筵に並べたハマグリにガソリンをかけて火を点け、一気に焼き上げます。燃え方が速いので、焼き上がるころにはガソリン臭さは消える。千葉県では2020年から、このガソリン焼きを食べるイベントが毎年開かれています。

台所のハマグリ

家なら、まずは酒蒸し。ザルでざくざく洗って水気をよく切り、ふたのできる鍋に入れて酒を加え、火にかける。ときどき鍋をゆすって、殻が開いたら出来上がり。白ワインで蒸せば、ワインに合う一皿になります。
焼きハマグリは塩だけで。洗って水気を切り、貝の表面に塩をまぶして火にかける。塩が乾いてきたら、貝が開く前ぶれです。汁をこぼさないように取れば、調味料なしでも旨みが濃い。
ひな祭りの吸いものは、ハマグリを水から煮るのが基本。だしが出たら椀の数だけ引き上げ、残りは鍋に置いたままにしてだしを濃くする。硬くならないうちに取り出した身を椀に入れ、汁を張ります。
生で食べるのは避けたい貝です。ハマグリには、ビタミンB1を壊す酵素が含まれています。1942年、ハマグリやアサリ、シジミのビタミンB1を測っている最中に、B1が消えてしまうことから見つかった酵素で、アノイリナーゼと名づけられました。いまはチアミナーゼとも呼ばれます。

旬のはなし

いちばん旨いのは、節分からひと月の間。ひな祭りの3月3日を前にした1週間前後が、ハマグリ類がもっとも出回るときです。俳句でも蛤は春の季語。

『江戸前の旬』では

連載の第35話の題が「ハマグリ」。111巻の紹介文は、秋になって極上の旨さになった魚の一つにハマグリを数え、78巻は江戸前を代表する食材として挙げます。2021年の総集編は『晩秋・ハマグリ編』です。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
オハマ東京東京の婦人言葉
バチハマ(場違ハマグリ)東京の市場チョウセンハマグリ。内湾ではない外洋のもの

次に読みたくなる

ハマグリとつながるタネ

出てきた土地

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