千葉県
東京湾と太平洋に囲まれた千葉は、江戸の食卓を支えた海の国。銚子漁港には200種ほどの魚が揚がり、寿司の醤油は野田と銚子で造られてきました。切り口に絵が現れる太巻き祭りずしも、房総の寿司です。
江戸の台所だった房総
銚子沖は黒潮と親潮の海
寿司の醤油は野田と銚子から
千葉は、寿司の醤油の産地でもあります。野田では、永禄年間(1558〜1569年)に飯田市郎兵衛が溜醤油を造りはじめたのがきっかけとされ、やがて関西の醤油を圧倒して江戸の需要をまかなうまでになりました。19世紀の中ごろには、高梨兵左衛門家と茂木佐平治家の醤油が幕府の御用醤油に選ばれています。銚子でも、干鰯商人だった田中玄蕃が1616年に醤油造りを始め、高瀬舟で江戸へ運びました。
東京湾に残る干潟
船橋の沖、東京湾に残された干潟「三番瀬」では、いまも海苔の養殖や、あさり、ホンビノスガイの漁が続いています。
千葉県での呼び名
| 呼び名 | 一般には | 出典での土地の書き方 |
|---|---|---|
| メジ(メジマグロ) | クロマグロ(本マグロ)小型 | 千葉・東京・神奈川、山形県鶴岡市、富山県高岡市 |
| バチ | メバチ(メバチマグロ) | 宮城県仙台、千葉県銚子、東京、神奈川県三崎、愛知県豊橋、高知 |
| ダルマ/ダルマシビ | メバチ(メバチマグロ)全長1m以下の若魚 | 東京、埼玉、千葉、群馬、静岡、三重、和歌山県太地 |
| ソゲ→オオソゲ→ヒラメ | ヒラメ1kg以下をソゲ、2kgくらいまでを大ソゲ、それ以上をヒラメ | 関東(千葉県、東京都、神奈川県) |
| シオッコ(汐っ子)/ショッコ | カンパチ若魚。出世魚としての呼び名 | 千葉県外房、東京、相模湾 |
| キンメ | キンメダイ | 千葉県銚子、東京、神奈川県三崎 |
| アカムツ | ノドグロ標準和名 | 千葉県金谷、東京都、神奈川県、富山県魚津、三重県志摩市、鹿児島県種子島 |
| カツラダイ(葛鯛) | マダイ(真鯛)葛網漁で取ったマダイ。将軍家へ献上された | 千葉県内房 |
| ジンタ/ジンタアジ | アジ10cm弱 | 千葉県館山市、関東の市場 |
| エンピツ(鉛筆) | サヨリ小さなもの | 千葉県 |
| シンイカ(新いか) | スミイカ(コウイカ)初夏から秋にとれる当歳の小イカ。 | 東京都・千葉県・神奈川県・兵庫県明石など |
| チガイ(血貝) | 赤貝 | 千葉県富津市・愛知県蒲郡・岡山県日生・山口県宇部市など |
| バカゲ | 青柳 | 千葉県船橋 |
| バカガイ | ホッキ貝 | 千葉県銚子市外川 |
| トンボ | トリガイ小振りのトリガイを開かずにゆでたもの。 | 千葉県船橋 |
| トウヘイ | 穴子大型。広島市では500g以上。 | 千葉県勝浦・広島市 |
千葉県の食べ方・名産
- イサキ千葉では冬はだめかというと、そうでもない。千葉県外房の勝浦などでは、イサキ釣りが冬から始まり、この寒のイサキがとてもうまいのです。暑い時期のイサキ釣りはしない、というベテランまでいる。
- イサキ千葉千葉県外房の「水なます」は、細かく叩いた身を、濃いめに氷水で溶いたみそに入れ、みょうが、大葉、ねぎ、玉ねぎ、きゅうりを合わせた汁。ご飯にかけて食べる、夏の料理です。
- キンメダイ千葉千葉は、日本のキンメダイの沿岸の漁場としては北の端。暖流と寒流がぶつかる銚子沖では、えさの小魚が集まり、大きさにかかわらず一年を通して上質な脂がのります。揚げたばかりのキンメは、じつは白い。
- スズキ千葉昔は身近な淡水域や内湾で取れて、人気の高い魚でした。ところが河川や内湾が汚れて高級魚の座を追われ、安い魚の代表に。それが近年、東京湾内房で鮮度を高める工夫が進み、夏の個体は再び高級魚になりつつあります。
- スズキ千葉汽水域にいるスズキには、独特のクセを感じることがあります。そこで古くから好まれたのが「洗い」。削ぎ切りにした身をさっと氷水に落とし、酢味噌で食べます。江戸時代、東京湾のいちばん奥、千葉・船橋で取れたスズキは初夏のご馳走でした。
- アジ千葉千葉県房総の「なめろう」は、揺れる船の上で漁師が作った料理。醤油ではこぼれてしまうので、味噌を使いました。皿をなめるほど旨い、だから「なめろう」。家で作るなら、三枚におろして皮を引いたアジを1cm幅に切り、味噌・長ねぎ・しょうが・しそをのせて、形がほとんど無くなるまで包丁でたたきます。
- アジ千葉なめろうを焼くと「さんが焼き」になります。名前の由来は二つ。漁師が山仕事に持って行き、アワビの殻に入れて山小屋で焼いたので「山の家(さんが)」の料理。千葉県に伝わる話です。もう一つは、千葉市の「寒川」でよく作られたから。
- イワシ千葉梅雨どきのイワシは「入梅鰯」と呼ばれ、うまい。ところがこの言葉、国語辞典にも歳時記にも見当たらない、という指摘があります。背景にあるのは、千葉県で6月に漁獲量も脂も急に増えることではないか、という見立てです。
- イワシ千葉千葉県九十九里町の「背黒いわしのごま漬け」。カタクチイワシに塩を振って5時間ほど置き、水洗いして調味液に7時間ほど漬けます。それをごま・しょうが・赤唐辛子と重ねて、重石をする。作るのは、旬の冬です。
- イワシ千葉千葉県九十九里地域の「いわしの卯の花漬け」は、イワシに塩を振って一晩置き、塩を洗って調味料に1日漬けてから、おからで漬け込んだもの。正月のおせちにも並びます。
- イワシ千葉九十九里浜のイワシ漁は、江戸時代から盛んでした。急速に伸びたのは、紀州の漁師が移り住んで地引網漁を始めてからです。
- 赤貝千葉アカガイが江戸前寿司の代表的なタネになったのは、昔の東京湾でたくさんとれたからです。名産地は、千葉県浦安市や千葉市のあたりでした。
- 赤貝千葉東京では、「検見川(ケミガワ)」がそのままアカガイの呼び名になりました。明治から昭和の初めまでは、千葉県検見川、東京都羽田、神奈川県子安の順に格付けされていたほどです。
- 赤貝千葉船橋では1955年ごろまで、アカガイを「かます」に約30kgずつ詰めて築地へ送っていました。かますとは、筵を二つ折りにした袋のことです。
- 青柳千葉寿司職人のあいだで「上総」といえば海苔のこと。産地の名で海苔を呼ぶ言い方で、「大森」と同じです。その上総の海苔で、内房の青柳の舌切りと大葉を細巻きにした「上総巻き」。大葉が貝のくせを抑えてくれる。小腹が空いたときにうれしい細巻きです。
- 青柳千葉夏目漱石『吾輩は猫である』に出てくる「行徳の俎(まないた)」。バカガイの産地だった行徳(いまの千葉県市川市)のまな板は、バカでこすれている。つまり人ずれしている、という地口です。
- 青柳千葉千葉県富津などの「なめろう」は、バカガイでも作ります。しそ、ねぎ、みょうが、しょうがとバカガイの身を味噌でたたいたもの。多めに作って夜は酒の肴、翌朝は焼いて「さんが焼き」にして、ご飯をたっぷり。
- 青柳千葉千葉県の内房では、浜で殻ごとゆでた「ゆで青柳」を盛んに作ります。別名は「はたき」。ゆで上がった身を、たたくようにして殻から落とすからです。むいた水管に竹串を刺して干す「目ざし」もあり、あぶるとじつに香りがいい。ただ、いまは作る人がまれになりました。
- アワビ千葉千葉県南房総の白浜には、アワビを卵とじにしてご飯にのせた、昔話があります。卵のほうが好きでアワビをよけて食べたら叱られた、というおまけつき。
- トリガイ千葉千葉県船橋市ではトリガイの佃煮を作ります。昔、大量にとれたときは、ゆでた貝を足で踏んで内臓を押し出していました。なんとも豪快な下処理です。塩ゆでしただけのものは「とんぼ」と呼びます。
- 太巻き千葉千葉の富津には、醤油をまぶしたカツオ節を芯にした太巻き「鉄砲巻き」があります。シャリではなく普通のご飯で巻くので、おかかのおにぎりを細長くしたようなもの。海苔の養殖が盛んな富津で、漁師の弁当として食べられてきました。節分には市の職員が集まって、この鉄砲巻きを恵方巻に見立て、恵方を向いてかぶりつき、海苔の豊漁を祈ります。
- 太巻き祭りずし千葉千葉の太巻き祭りずしは、切った瞬間が見せ場です。切り口に鶴や桜、ちょうちょ、パンダまで、いろいろな食材で描いた絵柄が現れる。「房総巻き」「房総太巻き寿司」とも呼ばれ、歴史は寛政年間(1789〜1801年)ごろまでさかのぼります。イワシを追いかけて来た紀州の漁師の弁当、めはりずしがルーツだという話も残っています。
- 太巻き祭りずし千葉戦前、この太巻きを作ってふるまうのは地元の名誉職の男性の役目でした。戦後、作り手が女性に移ってから、ぐっと華やかになります。流鏑馬の祭りや節句、節分、安産を祈る子安講、商売繁盛のえびす講、害虫を追い払う虫送りと、行事のたびに欠かせないごちそう。1960年代からは千葉伝統郷土料理研究会の龍崎英子さんが、房総のあちこちに散らばっていた巻き方と絵柄を若い世代に伝えてきました。
- 太巻き祭りずし千葉祭りだけではありません。入学式や運動会、お花見と、家族の行事に合わせて家々で巻かれ、季節を問わず一年じゅう食べられています。材料は、シャリ、海苔、卵、かんぴょう、青菜の漬物、桜でんぶ。食べる前に、まず断面の華やかな絵柄を目で楽しみます。
- 太巻き祭りずし千葉農林水産省に載っている千葉のレシピは、切り口に木が現れる絵柄です。まず、砂糖と醤油、みりんで茶色く煮たかんぴょう3〜4本を半分に切った海苔ではさみ、二つ折りにして木の幹を作る。シャリは白と、紅しょうがのみじん切りを混ぜたピンクの2色を用意します(ピンクは市販の寿司粉でも作れる)。巻き簾に卵焼きを置いて、白とピンクのシャリ、かんぴょう、細く切った海苔を重ね、真ん中のくぼみに幹を立てる。根が張るようにかんぴょうを足したら、卵焼きで巻き上げます。合わせ目を下にして、1本を8等分に。
- 太巻き祭りずし千葉「ふるさとおにぎり百選」と「農山漁村の郷土料理百選」に選ばれています。
千葉県の寿司ばなし
このページの出典(35件)
- 関東地方 千葉県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-29 閲覧
- クロマグロ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- メバチマグロ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- ヒラメ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- カンパチ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- キンメダイ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- アカムツ(ノドグロ)|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- マダイ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- マアジ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- サヨリ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- コウイカ(ハリイカ)|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- アカガイ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- バカガイ(アオヤギ)|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- ウバガイ(ホッキガイ)|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- トリガイ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- マアナゴ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 寒いさき/イサキ(281貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- イサキ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 千葉のつりきんめ|千葉県|全国のプライドフィッシュ(全国漁業協同組合連合会)2026-09-29 閲覧
- スズキ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 「㐂寿司」の夏の白身は、綺羅星のごとく。(2019年7月1日)(dancyu)2026-09-25 閲覧
- なめろう 千葉県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-25 閲覧
- さんが焼き 千葉県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-25 閲覧
- 「㐂寿司」の鰯は梅雨間の一瞬の光。(2019年7月15日)(dancyu)2026-09-25 閲覧
- マイワシ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 背黒いわしのごま漬け 千葉県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-25 閲覧
- いわしの卯の花漬け 千葉県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-25 閲覧
- アカガイの握り|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 青柳の上総巻き|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 行徳の爼とは|コトバンク(小学館『精選版 日本国語大辞典』)(コトバンク)2026-10-09 閲覧
- 吾輩は猫である(夏目漱石)|青空文庫(青空文庫)2026-10-09 閲覧
- バカガイ|Wikipedia(Wikipedia)2026-09-25 閲覧
- クロアワビ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 鉄砲巻き 千葉県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-29 閲覧
- 太巻ずし 千葉県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-29 閲覧