寿司のデータベース

品書き / 貝など

青柳

あおやぎ/Chinese mactra (Bakagai)

標準和名はバカガイ。「馬鹿貝」では品書きに書きにくいと、江戸の職人が産地・上総の青柳の地名で呼び替えました。甘みのあとに来るほろ苦さが持ち味。貝柱は「小柱」として、軍艦巻きやかき揚げ、あられそばになります。

バカガイ
バカガイ写真: Almandine(CC BY-SA 3.0)

旬

2月ごろから7月いっぱい。産地で時季がずれる。

旬 出回る時期

「馬鹿貝」を「青柳」と呼び替えた江戸の職人

「馬鹿貝」を品書きに書くのは、さすがに気が引ける。そこで江戸の職人は、バカガイの一大集積地だった上総国市原郡青柳(いまの千葉県市原市)の地名を借りて「青柳」と呼び替えました。寿司屋の雅な名前は、産地の地名だったのです。市場では、さらに縮めて「ヤギ」。
では、なぜ「バカ」なのか。候補がとにかく多い貝です。潮の満ち引きに敏感で一夜で棲みかを変えるから「場替え」。殻を閉じずにだらしなく足(舌)を出している姿から。「バカに」たくさんとれたから。殻が薄く壊れやすい「破家貝」。よくとれた幕張の古い地名「馬加(まくわり)」を音読みした、というものまであります。
じつは逃げ足の速い貝です。砂に潜る速さはアサリやハマグリよりも上。足を使ってぴょんぴょん跳ねて、外敵から逃げることもできます。殻を閉じる力が弱いぶん、逃げて身を守るのです。

甘くて、ほろ苦い

東京江戸前を代表する寿司ダネで、東京湾ではいまもとれています。伝統の仕込みは、鍋にむき身と塩を入れてかき混ぜながら火を通し、手を入れていられないほど熱くなったところで氷水に落とす。水気をよく拭いて開き、握ります。東京湾のものは赤みが強く、味も濃い。春に江戸前をひとつだけ選ぶならこれ、と言いたくなる一貫です。
青柳の持ち味は、甘みと一緒にやってくる独特の苦み。そこにシコシコした歯切れのよさが加わります。このくせがあるから、シャリに埋もれない。
小ぶりなものや、むくときに傷をつけたものは、足だけを切り取った「舌切り」になります。開けるほど大きくないので、2枚重ねて握る。味は変わらず、厚みが出て食感はむしろいいくらい。生でもいいし、軽く湯通ししても歯ざわりがよくなります。
千葉寿司職人のあいだで「上総」といえば海苔のこと。産地の名で海苔を呼ぶ言い方で、「大森」と同じです。その上総の海苔で、内房の青柳の舌切りと大葉を細巻きにした「上総巻き」。大葉が貝のくせを抑えてくれる。小腹が空いたときにうれしい細巻きです。

大星、小星、あられ

小柱の軍艦巻き
小柱の軍艦巻き写真: Zheng Zhou(CC BY-SA 4.0)
貝柱は1個の貝に大小2つあり、大きいほうを「大星」、小さいほうを「小星」と呼びます。まとめて「小柱(こばしら)」。大星だけを選って軍艦巻きにするのは、江戸前らしい小粋な仕事です。身とはまた別物の、豊かな味がします。ただ、こういう一貫をつける職人は少なくなりました。
東京東京で「かき揚げ」といえば、一に小柱、二に小エビ(シバエビ)。貝らしい風味と甘みがかき揚げのなかで主張して、江戸前天ぷらでは主役級です。
東京東京の老舗そば屋には「あられそば」があります。かけそばに小柱を散らしたもの。天保8年から幕末にかけて書かれた『守貞謾稿』にも「ばかと云う貝の柱をそばの上に加うを云う」とあり、いまではそば屋の品書きでいちばん高い品のひとつです。

深川めしは、もとはバカガイ

深川で貝をむく女性(歌川国芳)
深川で貝をむく女性(歌川国芳)写真: 歌川国芳(Public domain)
東京深川めしも、初めはアサリではなくバカガイで作っていました。深川にはバカガイの身をむく「むきみ女」がいて、歌川国芳が浮世絵に描いています。東京湾の隅田川河口や品川、羽田でたくさんとれたからこそ、東京はいまもバカガイの一大消費地です。
千葉夏目漱石『吾輩は猫である』に出てくる「行徳の俎(まないた)」。バカガイの産地だった行徳(いまの千葉県市川市)のまな板は、バカでこすれている。つまり人ずれしている、という地口です。
千葉千葉県富津などの「なめろう」は、バカガイでも作ります。しそ、ねぎ、みょうが、しょうがとバカガイの身を味噌でたたいたもの。多めに作って夜は酒の肴、翌朝は焼いて「さんが焼き」にして、ご飯をたっぷり。
千葉千葉県の内房では、浜で殻ごとゆでた「ゆで青柳」を盛んに作ります。別名は「はたき」。ゆで上がった身を、たたくようにして殻から落とすからです。むいた水管に竹串を刺して干す「目ざし」もあり、あぶるとじつに香りがいい。ただ、いまは作る人がまれになりました。

愛媛ではトリガイ、干せば姫貝

愛媛愛媛県西条市などではバカガイを「トリガイ」と呼び、むき身の塩焼き「焼きとりがい」が名品です。燧灘一帯では、すき焼きにもむき身を入れます。
愛媛干ものにもなります。むき身をそのまま干したのが「桜貝」、足を引き伸ばして干したのが「姫貝」。姫貝は愛媛県西条市の名物で、三重県の伊勢湾周辺でも作られています。濃い旨みに甘みを伴う渋みがあって、食べ始めると止まりません。

台所の青柳

家なら、ぬたがいちばん手軽。舌切りをわけぎと合わせて酢みそで和えるだけです。春の山菜や菜の花と合わせてもいい。
市販の小柱は、塩水で洗ってわさび醤油で食べるだけで一品に。適度な歯ごたえ、強い甘み、かすかな渋み。足(青柳)よりもうまいくらいです。
殻つきを手に入れたら、下ごしらえは慎重に。水中にすむ貝なので酸欠に弱く、アサリのような砂抜きができません。塩を入れた熱湯で軽くゆで、口が開いたらすぐに上げて、砂のたまったところを一粒ずつ指で取り除きます。

旬のはなし

旬は2月ごろから7月いっぱい。ただ、生殖巣が大きくなると味が落ち、産地によって時季がずれます。いま入荷が多いのは北海道と愛知県。北海道のものは大型で黄色っぽく、東京湾のものは近年小ぶりで赤みが強い。昔は北海道の白っぽい色が嫌われましたが、いまは大きさで値を上げています。

値段

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むき身は大きさがそろっていて高価です。反対に、殻つきの活けは二枚貝のなかでは比較的安い。その活けも、いまでは見かけるのがむしろ珍しくなりました。

大衆店

  • 築地玉寿司 築地本店「青柳」お好み1貫(税込)440円2026-09-29 時点
  • 梅丘寿司の美登利「青やぎ(季節商品)」(税込。貫数の記載なし。一部店舗は価格が異なる場合あり)165円2026-09-29 時点

『江戸前の旬』では

9巻では、夫婦げんかで家を出てきた場外食堂のおかみさんが柳寿司へ。大黒柱は一本でいいという亭主に、旬はアオヤギに貝柱が二つあることを、二本の大黒柱で助け合う夫婦の形にたとえます。

読者の感想によれば、9巻ではアオヤギの貝柱の大星と小星が、33巻では茹でたアオヤギにソースを合わせる一品が出てきます。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
アオヤギ(青柳)東京都(築地などの市場)
ヤギ関東周辺の市場
バカゲ千葉県船橋
トリガイ愛媛県西条市、和歌山県和歌山市
キヌガイ(絹貝)福岡県北九州市小倉、豊前海、大分県中津市
ウバガイ熊本県熊本市
ヒメガイ(姫貝)三重県干もの

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