サヨリ細魚・針魚
さより/Japanese halfbeak
下あごだけが針のように突き出た、細長い銀色の魚。江戸前の東京湾でたくさん揚がり、昔から握られてきた伝統の寿司ダネです。見た目は清楚なのに、腹を開くと中は真っ黒。白身と背の青い魚のあいだの味で、ほのかな苦みまで含めてうまい。

旬
サヨリ
秋に入荷が始まり、冬から春にかけて増える。味がいいのは産卵前まで。4月、5月になると卵巣や白子が大きくなり、脂が少しずつ落ちていきます。
旬 出回る時期
姿は清楚、腹は真っ黒
「サヨリのように腹黒い」ということわざがあります。見た目はすらりと美しいのに、腹を開くと内側の膜が真っ黒。そこから、外面はよくて腹の中が黒い人をこう呼ぶ。寿司屋が三枚に下ろしたあと、まず手をつけるのもこの黒い腹の皮です。

学名の種小名はsajori。シーボルトの持ち帰った標本をもとに記載されたとき、長崎での呼び名「サヨリ」がそのまま学名に入りました。
おぼろを抱いた、昔の握り
江戸前、東京湾でたくさん揚がる魚なので、古くからの伝統の寿司ダネです。江戸時代には生で使うことはほとんどなく、煮るか、酢で締めるか。基本は酢締めでした。酢で締めても、かすかな苦みと皮目の風味は消えない。そのうえ酢のさっぱりした味で生臭みが抜けて、実に食べやすい握りになります。
昔ながらの仕事はこうです。三枚に下ろしたら黒い腹の皮をすき取り、立て塩に10分ほど。軽く酢で洗って、片身で1かん。ひとつは真ん中で折ってスプーンの形にし、そこにおぼろを入れて握る。もうひとつはくるくると巻いて、蕨(わらび)の若芽のように仕立てる。どちらも江戸前握りの基本の技なのに、いまではほとんど見かけません。
サヨリの握りにつきものだったのが「おぼろ」。本来はシバエビなどをゆでてすり鉢ですったもので、いまは白身魚が原料になり、ほとんどの寿司屋が市場で仕入れています。おぼろの甘みが加わると、サヨリのかすかな臭みが消えて、風味の上に甘さがふわりと浮かぶ。
味は、背の青い魚と白身の中間。透明感のある白身に青魚らしいうま味と甘味があって、あとからほろ苦さが来る。血合いにも青魚のうま味があり、シャリに負けないのに、なじみもいい。完成度の高い握りです。大小で味があまり変わらないのも、サヨリの特徴。
引いた皮も捨てたものではありません。うま味が強く香りがよくて、あぶって握ると非常にうまい。ただ、値段のつかない副産物を握ってくれる寿司屋はめったにない。もったいない話です。
閂、鉛筆、吉永さより
大きなサヨリは「閂(かんぬき)」。左右に開く戸を留める、あの横棒です。閂と呼ばれる大物は最高級の魚。反対に千葉県では、小さなものを「鉛筆」と呼びます。
東京あたりの市場には「吉永さより」という呼び方まであります。高度成長期の前半に青春を送った世代が、ときどき口にするしゃれです。
名前の由来は、見立てがいくつもある。たくさん寄り集まる「沢寄り」。細長いことを表す「さ」。古名「よりと」の「と」が落ちた形。どれも群れで泳ぐ細長い姿に行き着きます。「細い魚」と書いてサヨリと読ませる漢字に、細くよった「紙縒(こより)」の音が重なったのでは、という見方もあります。
江戸時代には贈答品でもありました。九代将軍徳川家重の側室・安祥院の屋敷に奉公した小野ぎんのもとへ、明和4年(1767年)3月3日、実家から届いたのが「鱵(さより)七つ」とわかめ。
夏のサヨリは硬い
大阪のつかみずし、八幡浜のおから
大阪大阪の中央卸売市場には「つかみずし」があります。明治40年、雑喉場(ざこば)と呼ばれた魚市場で生まれた握りで、温かいシャリをふわりとつかみ取り、タネをのせて出す。刷毛でしょうゆを一塗りして食べるのが大阪流です。春のサヨリは、青じそを挟んで人肌のシャリに。
愛媛おからをシャリの代わりにした寿司は、西日本の各地に残っています。愛媛県では西部で「丸ずし」、東部で「いずみや」。八幡浜から届いたサヨリの丸ずしは、おからがやや甘め。安い緑茶と合わせると、実においしい。
香川香川県観音寺市の「さより茶づけ」は、糸のように細く切ったサヨリを炊きたてのご飯にのせ、もみ海苔を散らし、山椒の葉の香りを移したしょうゆをたらして、お茶をかけたもの。
関東冬の浮き釣りは、関東の冬の風物詩。大きなものはコマセかごをつけ、アミエサで狙います。
結んで椀に、開いて干して
100g前後のものなら刺身にしても映えます。三枚に下ろせば小骨はほとんど気にならない。黒い腹膜をすいて皮を引き、2〜3等分に切るだけ。
小ぶりのものは塩焼きに。鱗と内臓を取って塩をし、袋に入れて少し寝かせてから焼きます。焼いたそばから食べると、やめられなくなる。
古くからの使い道が吸いもの。細い身を結んだ「結びサヨリ」をかつお節のだしで温め、酒と塩で味をつけます。椀には新しいだしを張って、サヨリを沈める。
鮮度のいいものを開いて、やや強めに干せば開き干し。骨が軟らかいので、軽くあぶると丸ごと食べられます。時季を過ぎてやせたサヨリは、みりんとしょうゆで味をつけてみりん干しに。一味唐辛子がよく合う。
値段
大衆店
- 築地すしくろ 銀座インズ店「さより」お好み1貫(税込)330円2026-09-29 時点
市場
- 晩秋から春のサヨリ(仲卸)kgあたり3000〜4000円(年の記載なし)
- 夏のサヨリ(仲卸)kgあたり2000円(年の記載なし)
『江戸前の旬』では
サヨリの名を題にした回が、連載の第53話にあります。
読書メーターの感想には、サヨリの仕事がいくつも並びます。5巻の相生握り、29巻の皮焼き、57巻のサヨリづくし、72巻の酢締め。
83巻にも、「サヨリ」の題の話が入っています。
土地の呼び名
| 呼び名 | 土地 | 種類・メモ |
|---|---|---|
| カンヌキ(閂) | 関東周辺の市場 | 大型のもの。カンヌキザヨリとも |
| エンピツ(鉛筆) | 千葉県 | 小さなもの |
| ヨシナガサヨリ(吉永さより) | 東京都内などの市場 | しゃれ |
| スクビ | 鳥取県米子、島根県松江・隠岐、愛媛県松山 | |
| サイラ | 三重県志摩、高知 | |
| スズ | 和歌山県、徳島県海部郡海陽町、石川県、大阪府堺 | |
| サエリ | 高知 | |
| サイレンボウ | 茨城県霞ヶ浦 | |
| クチナガ | 岩手県宮古 | |
| セイロ | 神奈川県三崎 | |
| ナガイワシ | 鹿児島 | |
| 花見魚 | 石川 | 春に旬を迎えるため |
次に読みたくなる
サヨリとつながるタネ
同じころに旬を迎えるタネ
出てきた寿司ことば
- 光り物皮が光る魚に、酢で締める仕事をほどこす。江戸前寿司でいう光り物です。言葉は江戸時代の握り寿司で生まれ、その色合いと酢で締める仕事に由来します。代表はコハダ。
- おぼろエビや白身魚の身をゆでてほぐし、味を付けて細かく炒ったもの。そぼろよりも、さらに細かくほぐしたものを指します。伝統的な江戸前寿司では、芝海老のおぼろが要です。
- 酢締め(酢〆)魚に塩をしてから酢に漬けて締める、江戸前寿司の仕事。コハダ・サバ・アジなどの光り物に施します。
- 江戸前もとは江戸城の目の前の海のこと。埋め立てで元の海が消えるにつれて範囲が広がり、いまは東京湾全体を指します。寿司の世界では、その海の魚介に仕事を施して握る流儀の名でもあります。
このページの出典(16件)
- サヨリ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- サヨリの握り(1006貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 針魚/サヨリ(782貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- さよりの酢じめわらび造り(1007貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- サヨリのあぶり皮(936貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 夏細魚/サヨリ(626貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- [雑記19]ゑんどう/つかみずし(大坂)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 細魚/つかみずし(624貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- サヨリの丸ずし(1394貫目)|WEB寿司図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 築地すしくろ 銀座インズ店(お品書き)|築地玉寿司グループ(株式会社玉寿司)2026-09-29 閲覧
- 53話:サヨリ【江戸前の旬】|ラブすぽ(ラブすぽ(日本文芸社))2026-10-11 閲覧
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