寿司のデータベース

品書き / 光り物

サヨリ細魚・針魚

さより/Japanese halfbeak

下あごだけが針のように突き出た、細長い銀色の魚。江戸前の東京湾でたくさん揚がり、昔から握られてきた伝統の寿司ダネです。見た目は清楚なのに、腹を開くと中は真っ黒。白身と背の青い魚のあいだの味で、ほのかな苦みまで含めてうまい。

サヨリ(済州島で採集された標本)
サヨリ(済州島で採集された標本)写真: Kwun H, Park J, Kim H, Kim J, Park H (2017)(CC BY 4.0)
サヨリの握り
サヨリの握り写真: Arashiyama(CC BY-SA 3.0)

旬

秋に入荷が始まり、冬から春にかけて増える。味がいいのは産卵前まで。4月、5月になると卵巣や白子が大きくなり、脂が少しずつ落ちていきます。

旬 出回る時期

姿は清楚、腹は真っ黒

「サヨリのように腹黒い」ということわざがあります。見た目はすらりと美しいのに、腹を開くと内側の膜が真っ黒。そこから、外面はよくて腹の中が黒い人をこう呼ぶ。寿司屋が三枚に下ろしたあと、まず手をつけるのもこの黒い腹の皮です。
川原慶賀が描いたサヨリ(1823〜1829年、シーボルト・コレクション)
川原慶賀が描いたサヨリ(1823〜1829年、シーボルト・コレクション)写真: 川原慶賀(Naturalis Biodiversity Center 所蔵)(Public domain)
長く伸びているのは下あご。上のくちばしは伸びていないので、じつは受け口です。海面近くを群れで泳ぎ、小さな甲殻類やアマモ、水に落ちた虫まで食べる。寿命は2年ほどです。
学名の種小名はsajori。シーボルトの持ち帰った標本をもとに記載されたとき、長崎での呼び名「サヨリ」がそのまま学名に入りました。

おぼろを抱いた、昔の握り

江戸前、東京湾でたくさん揚がる魚なので、古くからの伝統の寿司ダネです。江戸時代には生で使うことはほとんどなく、煮るか、酢で締めるか。基本は酢締めでした。酢で締めても、かすかな苦みと皮目の風味は消えない。そのうえ酢のさっぱりした味で生臭みが抜けて、実に食べやすい握りになります。
昔ながらの仕事はこうです。三枚に下ろしたら黒い腹の皮をすき取り、立て塩に10分ほど。軽く酢で洗って、片身で1かん。ひとつは真ん中で折ってスプーンの形にし、そこにおぼろを入れて握る。もうひとつはくるくると巻いて、蕨(わらび)の若芽のように仕立てる。どちらも江戸前握りの基本の技なのに、いまではほとんど見かけません。
サヨリの握りにつきものだったのが「おぼろ」。本来はシバエビなどをゆでてすり鉢ですったもので、いまは白身魚が原料になり、ほとんどの寿司屋が市場で仕入れています。おぼろの甘みが加わると、サヨリのかすかな臭みが消えて、風味の上に甘さがふわりと浮かぶ。
味は、背の青い魚と白身の中間。透明感のある白身に青魚らしいうま味と甘味があって、あとからほろ苦さが来る。血合いにも青魚のうま味があり、シャリに負けないのに、なじみもいい。完成度の高い握りです。大小で味があまり変わらないのも、サヨリの特徴。
引いた皮も捨てたものではありません。うま味が強く香りがよくて、あぶって握ると非常にうまい。ただ、値段のつかない副産物を握ってくれる寿司屋はめったにない。もったいない話です。

閂、鉛筆、吉永さより

大きなサヨリは「閂(かんぬき)」。左右に開く戸を留める、あの横棒です。閂と呼ばれる大物は最高級の魚。反対に千葉県では、小さなものを「鉛筆」と呼びます。
東京あたりの市場には「吉永さより」という呼び方まであります。高度成長期の前半に青春を送った世代が、ときどき口にするしゃれです。
名前の由来は、見立てがいくつもある。たくさん寄り集まる「沢寄り」。細長いことを表す「さ」。古名「よりと」の「と」が落ちた形。どれも群れで泳ぐ細長い姿に行き着きます。「細い魚」と書いてサヨリと読ませる漢字に、細くよった「紙縒(こより)」の音が重なったのでは、という見方もあります。
江戸時代には贈答品でもありました。九代将軍徳川家重の側室・安祥院の屋敷に奉公した小野ぎんのもとへ、明和4年(1767年)3月3日、実家から届いたのが「鱵(さより)七つ」とわかめ。

夏のサヨリは硬い

夏のサヨリは別物です。触ると身が硬く、脂がないせいで銀皮がきれいに引けない。握っても風味はあるものの、やはり硬い。値段も、晩秋から春ならkgあたり3000〜4000円のところ、夏は2000円です。
刺し網などで獲れても量は少なく、高級魚のひとつ。入荷の仕方もアジやサバとは違って、少量を小さな発泡スチロールの箱にていねいに並べて届きます。スーパーより魚屋、魚屋よりデパートで見かける魚です。

大阪のつかみずし、八幡浜のおから

大阪大阪の中央卸売市場には「つかみずし」があります。明治40年、雑喉場(ざこば)と呼ばれた魚市場で生まれた握りで、温かいシャリをふわりとつかみ取り、タネをのせて出す。刷毛でしょうゆを一塗りして食べるのが大阪流です。春のサヨリは、青じそを挟んで人肌のシャリに。
愛媛おからをシャリの代わりにした寿司は、西日本の各地に残っています。愛媛県では西部で「丸ずし」、東部で「いずみや」。八幡浜から届いたサヨリの丸ずしは、おからがやや甘め。安い緑茶と合わせると、実においしい。
香川香川県観音寺市の「さより茶づけ」は、糸のように細く切ったサヨリを炊きたてのご飯にのせ、もみ海苔を散らし、山椒の葉の香りを移したしょうゆをたらして、お茶をかけたもの。
関東冬の浮き釣りは、関東の冬の風物詩。大きなものはコマセかごをつけ、アミエサで狙います。

結んで椀に、開いて干して

100g前後のものなら刺身にしても映えます。三枚に下ろせば小骨はほとんど気にならない。黒い腹膜をすいて皮を引き、2〜3等分に切るだけ。
小ぶりのものは塩焼きに。鱗と内臓を取って塩をし、袋に入れて少し寝かせてから焼きます。焼いたそばから食べると、やめられなくなる。
古くからの使い道が吸いもの。細い身を結んだ「結びサヨリ」をかつお節のだしで温め、酒と塩で味をつけます。椀には新しいだしを張って、サヨリを沈める。
鮮度のいいものを開いて、やや強めに干せば開き干し。骨が軟らかいので、軽くあぶると丸ごと食べられます。時季を過ぎてやせたサヨリは、みりんとしょうゆで味をつけてみりん干しに。一味唐辛子がよく合う。

値段

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大衆店

  • 築地すしくろ 銀座インズ店「さより」お好み1貫(税込)330円2026-09-29 時点

市場

  • 晩秋から春のサヨリ(仲卸)kgあたり3000〜4000円(年の記載なし)
  • 夏のサヨリ(仲卸)kgあたり2000円(年の記載なし)

『江戸前の旬』では

サヨリの名を題にした回が、連載の第53話にあります。

読書メーターの感想には、サヨリの仕事がいくつも並びます。5巻の相生握り、29巻の皮焼き、57巻のサヨリづくし、72巻の酢締め。

83巻にも、「サヨリ」の題の話が入っています。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
カンヌキ(閂)関東周辺の市場大型のもの。カンヌキザヨリとも
エンピツ(鉛筆)千葉県小さなもの
ヨシナガサヨリ(吉永さより)東京都内などの市場しゃれ
スクビ鳥取県米子、島根県松江・隠岐、愛媛県松山
サイラ三重県志摩、高知
スズ和歌山県、徳島県海部郡海陽町、石川県、大阪府堺
サエリ高知
サイレンボウ茨城県霞ヶ浦
クチナガ岩手県宮古
セイロ神奈川県三崎
ナガイワシ鹿児島
花見魚石川春に旬を迎えるため

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サヨリとつながるタネ

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