寿司のデータベース

品書き / 貝など

アワビ鮑

あわび/Abalone

アワビは、生で握るか蒸して握るかで職人の考えが割れるタネです。いまの主流は生のクロアワビ。ただ、江戸前らしい一仕事といえば、酒と水でじっくり蒸す蒸しアワビ。蒸すならマダカアワビです。贈りものの「のし」も、もとは干したアワビでした。

エゾアワビの殻(北海道産)
エゾアワビの殻(北海道産)写真: GV718(CC BY 3.0)
アワビの握り
アワビの握り写真: takaokun(CC BY 2.0)

旬

クロアワビ
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メガイアワビ
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マダカアワビ
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エゾアワビ
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クロアワビとメガイアワビは夏。エゾアワビは春から初夏、マダカアワビは春から秋。

旬 出回る時期

種類

クロアワビ

別名 オガイ、オンガイ

足も殻も黒っぽい、いちばんの高級品。浅い岩場にいて身が硬く、刺身のコリコリを楽しみます。いまは単に「アワビ」と言えばこれ。

旬は夏

メガイアワビ

別名 メガイ、メンガイ、ビワガイ

身がやわらかく、生よりも酒蒸しや煮貝で本領を出す。クロアワビよりやや安い。

旬は夏

マダカアワビ

別名 メタカアワビ

国内でいちばん深い海にいる大型種。生では味が物足りず、蒸して化ける。江戸前の蒸しアワビに欠かせない。

旬は春〜秋

エゾアワビ

クロアワビの北方系亜種。いちばん多く養殖され、流通ではクロアワビより多い。

旬は春〜初夏

生で握るか、蒸して握るか

アワビを生で握るか、蒸して握るか。いま「アワビ」と言えばクロアワビ。生で食べるようになった結果です。でも江戸前の握りにそれでいいのか。生のアワビは磯の香りも貝らしい旨さもある。ところが、ベテランの職人に言わせると「すし飯となじまねーよね」。生でつけるのを嫌う職人は、いまもいます。
マダカアワビそこで蒸しアワビ。酒と水で蒸し上げると、硬いアワビが蒲鉾のように軟らかくなり、それでいて濃い味は身に残る。30分蒸して、そのまま鍋で一晩。シャリと一緒に噛み切れて、噛んだ瞬間に貝の旨さと蒸し汁の味があふれます。蒸すなら、マダカに限る。
メガイアワビいつも「雄貝」クロアワビと比べられ、格下に見られがちな「雌貝」メガイアワビ。差が出るのは、生でコリコリ食べたときの話です。酒と水を同割にして塩、ほんの少しの醤油で蒸し煮にし、翌日まで鍋止め。こうすれば、値の張る雄貝と味わいは互角か、それ以上。身はしっとり柔らかく、じわりと甘い。
蒸し鮑と煮鮑の境目は、じつはかなりあいまいです。蒸したら蒸し鮑、煮たら煮鮑のはずが、煮ていても蒸し鮑と呼ぶ店はいくらでもある。そもそも「蒸す」といっても蒸し煮に近い。少しでも醤油を加えたら「煮貝」だ、と言い切る職人もいます。

蒸し器で1時間、竹串がすっと通るまで

銀座のある店の蒸し方はこうです。水を流しながらタワシで表面のぬめりをこすり落とす。身が固くなるのを嫌って、塩はしない。バットに酒を少し張ってアワビを並べ、昆布をかけて蒸し器で1時間。竹串がすっと通れば完成で、大きいものなら2時間かかることもあります。蒸すほど柔らかくなるとは限らず、柔らかさには限界がある。だからこそ、仕入れがいちばん大切です。
蒸したアワビは殻から簡単に外れ、肝も一緒に取れます。黒っぽい砂袋を外し、肝だけをすり鉢ですって、牛乳と蒸し汁でのばす。醤油と味醂で味をととのえれば肝ソース。蒸し鮑は厚めに波切りにして、ソースをからめます。
マダカアワビマダカアワビは、国内のアワビでいちばん深い海にいる大型種。生より火を通して旨く、江戸前寿司に欠かせないので値はとても高い。産地の千葉県などでは減少が大きく、年々価値が上がっています。酒蒸しには高度な技術がいるから、寿司屋や料理店でしか出会えない味です。

雄貝と雌貝は夫婦ではない

市場で「オガイ(雄貝)」と呼ぶのはクロアワビ、「メガイ(雌貝)」はメガイアワビ。夫婦のような呼び名ですが、雌雄ではなく別の種類です。メガイアワビは産地が限られて量も少なかったので、実際にクロアワビの雌だと思われていました。本当の雌雄は、生殖腺の色で見分けます。緑なら雌。
すむ深さも分かれています。いちばん浅い岩場にクロアワビ、中くらいの深さにメガイアワビ、15mより深いところにマダカアワビ。
マダカアワビマダカは「目が高い」。目とは殻に並ぶ穴のことで、マダカではこれが煙突のように高く盛り上がります。トコブシの別名「ゴケンジョ」には、もっと手厳しい読み方がある。「後家の女」で、二枚貝に似た平たい殻が1枚しかない姿を、夫を亡くした人に重ねたというもの。ただ、志摩の呼び名「ゴケンジョウ」を「ご献上」かと見る図鑑もあります。
二枚貝の片方をなくしたような姿ですが、アワビは巻き貝の仲間。巻いた殻が、お椀のように大きく開いた形です。殻に並ぶ穴は、水や排泄物、卵を出すためのもの。アワビでは4〜5個で、トコブシなら6〜8個開いています。

のしと片思い

三重贈りものに付ける「のし」の正体は、アワビです。クロアワビを薄く紐状に切って干し、神饌として供えた「のしあわび」がもと。伊勢神宮の神事に使う国崎(三重県鳥羽市)の熨斗鰒にちなみ、御師が縁起物として配り始めた。これが広まるきっかけです。いまの熨斗紙の印刷は、それを図案にしたものです。
片思いをアワビにたとえるのは、『万葉集』からある言い回しです。伊勢の海人が朝な夕なに潜って採るアワビを詠んだ歌に、「あはびのかひのかたもひ」と出てくる。殻が大きく平らで、二枚貝の片方だけに見えるところから、片思いにかけました。アワビは縄文時代の貝塚からも出てくる、ずっと昔から食べられてきた貝です。
「アワビ」の語源は、とにかく説が多い。殻と身が合わない「あわぬみ」。反対に、ぴたりと合う「あはすみ」。岩を這う身で「いははひみ」。ふたがないことを言った、という見方まであります。

海のない甲州の名物

あわびの煮貝(山梨県)
あわびの煮貝(山梨県)写真: Kentin(CC BY-SA 4.0)
山梨海のない山梨の名物が、アワビの煮貝。醤油ベースの煮汁で丸ごと煮浸しにしたものです。駿河の海産物を山越えで運ぶとき、アワビは醤油に漬けて馬の背に乗せた。道中、醤油の味と馬の体温で、ちょうどいい煮貝に仕上がった。由来には説がいくつかあり、よく知られるのがこの話です。食べるときはできるだけ薄く切り、しそや薄切りのきゅうりと盛る。肝も一口大に切って添えます。
エゾアワビ・青森青森県八戸のあたりには「いちご煮」があります。塩と酒と水を煮立てた中で、ウニとエゾアワビの切り身をさっと煮た汁もの。汁にアワビとウニの甘みが溶け出します。
千葉千葉県南房総の白浜には、アワビを卵とじにしてご飯にのせた、昔話があります。卵のほうが好きでアワビをよけて食べたら叱られた、というおまけつき。

台所のアワビ

家で生を楽しむなら水貝がおすすめ。塩で味をつけた昆布だしをよく冷やし、切った身とツノワタ(肝)を浮かべるだけ。醤油で食べるより、アワビ本来の味が立ちます。
酒蒸しも台所でできます。水洗いして塩をまぶし、身を締めてからもう一度洗う。多めの酒と水、塩で蒸し煮にすれば、小ぶりのものなら15分ほど。一晩鍋に置いて冷ましながら味を含ませれば、煮貝風にもなります。
春先のツノワタ(肝)には気をつけたい。まれに、食べたあと日光に当たって顔や手が赤く腫れる光過敏症が起こります。海藻の葉緑素に由来するもので、無毒な肝は灰緑色から緑褐色、危ないのは濃い緑黒色。春先は肝を食べないのがいちばんの対策です。

旬のはなし

旬は種類でずれます。クロアワビとメガイアワビは夏。エゾアワビは春から初夏、マダカアワビは春から秋。

値段

回転寿司・街の寿司屋・高級店のおまかせを並べて比べる

エゾアワビ値段は種類で大きく違います。クロアワビはいまも高値で安定。メガイアワビは生食に向かないぶん、少し安い。エゾアワビはアワビ類でいちばん多く養殖され、韓国や台湾、チリからも入って、手ごろな値に落ち着いてきました。

大衆店

  • 築地玉寿司 築地本店「あわび」お好み1貫(税込)880円2026-09-29 時点
  • 築地すし鮮「ひとくちあわびおどり」おこのみ1貫(税込)632円2026-09-29 時点
  • すしざんまい「あわび」1個(グランドメニュー、税込)547円2026-09-29 時点
  • 梅丘寿司の美登利「あわび」(税込。貫数の記載なし。一部店舗は価格が異なる場合あり)550円2026-09-29 時点
  • 芦屋 波沙鮓「あわび」にぎり1貫(税込。本体価格1,500円)1,650円2026-09-30 時点

『江戸前の旬』では

2巻は、食事を拒む母の誕生日に、思い入れのあるアワビの握りを食べさせたい、という客の話。体の弱った母のために、旬はアワビの旨さをなくさずに柔らかくする方法を考えます。連載の第12話も、題は「アワビ」です。

読者の感想をたどると、2巻ではアワビを砂糖で磨いて大根と炊き、さらに柔らかく煮ます。30巻には鮑とろろ、36巻には松茸で作る精進の鮑。

83巻には「蒸しアワビ」と題した話があります。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
オガイ(雄貝)市場(全国)クロアワビ。メガイアワビを雌に見立てた呼び名。雌雄ではない
メガイ(雌貝)市場(全国)メガイアワビ

次に読みたくなる

アワビの寿司ばなし

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