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品書き / 白身

イサキ伊佐木・鶏魚

いさき/Chicken grunt

梅雨どきに脂がのるから「梅雨イサキ」、麦の刈り入れどきにうまくなるから「麦わらイサキ」。多くの魚が旬を失ったいまも、産卵期がずれず、昔どおりの初夏に旬を迎える数少ない魚です。関東では長く塩焼きの魚で、保守的な寿司屋は使わなかった。それが近年、夏だけは握る職人が増えてきました。

長崎産のイサキ(東京の売場、2019年11月)
長崎産のイサキ(東京の売場、2019年11月)写真: Nesnad(CC BY 4.0)
イサキの握り(東京・池袋の立ち食い寿司店)
イサキの握り(東京・池袋の立ち食い寿司店)写真: RuinDig/Yuki Uchida(CC BY 4.0)

旬

旬はあえて言えば春から夏で、大麦・小麦の収穫期にあたる5〜7月。とはいえ1年を通しておいしいものが手に入り、外房の釣りものは寒の時期もうまい。瓜坊(幼魚)は秋に脂がのってきます。

旬 出回る時期

梅雨イサキ、麦わらイサキ

イサキといえば「梅雨イサキ」。旬は5〜6月、梅雨のころにいちばん脂がのります。産卵のピークは7〜8月で、その1〜2か月前、良い卵を産むためにたっぷりエサを食べて太る。だから梅雨どきがうまい。同じ季節を、麦の刈り入れで言えば「麦わらイサキ」になります。
5月から7月、大麦や小麦の刈り入れどきに旬を迎えるので「麦わらイサキ」「麦熟らし」。紀州には「ムギワライサギ」の呼び名まであります。多くの魚が旬を失っているいまでも、イサキは産卵期がほとんどずれず、旬も昔どおり。新麦の麦飯で食べるイサキは、確かにうまい。
千葉では冬はだめかというと、そうでもない。千葉県外房の勝浦などでは、イサキ釣りが冬から始まり、この寒のイサキがとてもうまいのです。暑い時期のイサキ釣りはしない、というベテランまでいる。
外洋に面した磯の魚で、内湾にはほとんどいません。昔は千葉県や島根県から南に多かったのが、はっきり北へ上がってきています。

夏だけは握る

保守的な職人は、磯の魚をあまり使いません。手堅い店ではタネの種類も多くなく、イサキはまず出てこない。ただ「夏だけは使うね」という職人は、近年とても増えています。4月半ばの千葉のイサキは、切りつけるとしんなり柔らかく、表面に脂がテカテカ浮いていました。
夏のイサキは白子を抱えています。この白子が究極の美味。真子はそれほどでもないので白子も期待せずに食べると、意外なほどうまい。あぶって、ほんのり温かいうちに握ると、もろくほぐれてクリーミー。関東ではあまり使わず、市場の仲卸に無造作に置かれていることもあります。
真子のほうは、煮切りを塗ってあぶって握る。しょうゆの香りで食べさせる一かんです。

瓜坊は親を超える

縞のくっきりしたイサキ
縞のくっきりしたイサキ写真: Izuzuki(CC BY 3.0)
イサキは小さくてもうまい。幼魚には、イノシシの子のような縞があるので、関東では「瓜坊(うりぼう)」。手のひらにすっぽり収まる大きさなら、片身で1かんの握りにできます。50gあるかないかの瓜坊が、皮の下に鈍色の脂をべっとりまとっていることがある。親を超える味、と職人がつぶやくほどです。
瓜坊を片身づけにしてあぶり、焦げた表面に煮切りをひとはけ、叩いた山椒の葉をのせる。まだ温かいうちに口へ入れると、すぐに身がほぐれてシャリとひとつになり、強い甘みが浮かび上がってきます。
神奈川小田原や真鶴の定置網には、秋に幼魚がごっそり入ります。それで呼び名が「ゴッソリ」。一度に大量に入って困る、という意味も込められています。

江戸では「下品」と言われた

歌川広重『魚づくし』「かさご いさきに生姜」
歌川広重『魚づくし』「かさご いさきに生姜」写真: 歌川広重(メトロポリタン美術館)(CC0)
江戸時代の評判はさんざんでした。1697年の『本朝食鑑』は「魚中の下品」で民間で好まれる、と書き、1712年の『和漢三才図会』は「味はよくない」。一方、1831年の『魚鑑』は「脂多く味よし」。骨が喉に刺さると抜けにくい、とも書いています。
「斑」は古い言葉で「いさ」。斑紋の目立つ魚だから、「いさ」に魚を表す「き」「ぎ」がついてイサキ、イサギ。縞が目立つのは小さいうちなので、岸近くでよく見かける大きさから名がついたことがわかります。標準和名は東京の呼び名ですが、全国ではイサギと呼ぶ土地のほうが多い。
英名はChicken grunt。gruntはぐうぐう音を出すことで、確かにイサキは釣り上げると音を出します。ただ、鶏とは結びつきません。
選ぶときに目を見てはいけない魚です。イサキは鮮度に関係なく目が白く濁る。ずんぐり丸みを帯びたものを選びます。昼は海藻の多い海底に潜み、夜に海面近くへ浮いて盛んに餌をとる夜行性。

煮こごりにそうめん

徳島徳島県海陽町の竹ヶ島では、5月下旬の竹ヶ島神社の祭りにイサキの煮つけを食べます。大ぶりのものを大皿に盛り、翌日、煮こごりになったところに冷たいそうめんをつけて食べる。つけるうちに煮こごりが溶けて、そうめんによくからみます。
千葉千葉県外房の「水なます」は、細かく叩いた身を、濃いめに氷水で溶いたみそに入れ、みょうが、大葉、ねぎ、玉ねぎ、きゅうりを合わせた汁。ご飯にかけて食べる、夏の料理です。
三重三重県の尾鷲や紀伊長島では「いさぎのたたき」。三枚に下ろして皮を引き、腹骨も中骨もそのままに、しょうがや大葉と細かく叩いて酢じょうゆで食べます。ときどき骨が歯に当たるのも、この料理のよさ。
三重小イサキで、三重県志摩地方の「手こねずし」も作れます。しょうゆと砂糖に漬けた魚の切り身を、漬けだれとすし酢ごと炊きたてのご飯に混ぜ込むので、シャリは白くありません。上に青じそやみょうが、山椒の葉をのせれば夏の味です。

皮に味がある

関東で昔から人気なのは塩焼き。塩を振って1時間以上置き、じっくり焼くと、身の脂が皮ににじみ出て揚げたようになり、皮目に独特の風味が出る。これこそイサキの持ち味です。
旬の脂ののったものは、皮を引いて素直に刺身に。血合いが赤く美しく、身に均一に混ざった脂が甘い。まだ縞の残る小さいものなら、皮目をあぶる焼霜造りもいい。イサキの味は皮にあります。
白子が入っていたら、塩をして出てきた水分を拭き、塩を加えた湯で煮立てないように火を通す。氷水で粗熱を取って切れば、クリームのような食感に、しんじょうのようなまとまり。

長崎の梅雨イサキ、伊豆の島の澄まし汁

長崎イサキの水揚げ日本一は長崎で、全国のおよそ3割。長崎でも、6〜7月の産卵期に脂がたっぷりのったものを「梅雨イサキ」と呼びます。五島の北では、疑似餌で1尾ずつ釣り上げる。
東京伊豆諸島では、大島から三宅島までの北の島々が主な漁場。桜が散るころから初夏にかけて、よく釣れ始めます。島の郷土料理は、ぶつ切りのイサキでだしをとり、アシタバを浮かべた澄まし汁。

値段

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市場

  • 瓜坊(イサキの幼魚、卸値)kgあたり500円(2012年5月ごろ)
  • イサキ(市場)夏に値がつく。大型は最高級、活け締めは高級、野締めはやや高値(年の記載なし)

『江戸前の旬』では

125巻の初夏の寿司の中に、「夏イサキ」が入っています。

読者の感想には、イサキの食べ方が季節ごとに並びます。7巻は北を向いて食べるイサキ、39巻はイサキの水なます、54巻は焼き霜造り。74巻では寒イサキを65℃で湯霜にします。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
イサギ各地(イサキより多い)
ウリボウ(瓜坊)関東幼魚。イノシシの子のような縞があるので
ゴッソリ神奈川県小田原市・真鶴町、静岡県伊東市秋に定置網に大量に入る幼魚。一度に入りすぎて困る、の意味も
ムギワライサギ紀州麦わらの黄ばむころに多くとれるので
スジイサキ神奈川県相模湾一帯幼魚
ドジンゴ長崎県平戸市度島小型
イラッコ静岡県伊豆土肥小型。大きくなるとコシタメ
コシタメ静岡県松崎・戸田・静浦大型
クロブタ神奈川県三崎成魚
ビシャコ高知県土佐清水市成魚

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