寿司のデータベース

品書き / 煮物・玉子

うなぎ鰻

うなぎ/Freshwater eel (Unagi)

「江戸前」という言葉は、もともとウナギのためのものでした。ところが江戸前の寿司屋は、ウナギを握らなかった。煮て握るのは穴子で、ウナギは焼くもの。寿司屋がウナギを置くようになったのは、郊外に住宅地が広がってからのことです。九州では逆に、ウナギを置かない寿司屋はまずありません。

ニホンウナギ(屋久島の川の河口)
ニホンウナギ(屋久島の川の河口)写真: Ffish.asia(CC BY 4.0)
うなぎの握り
うなぎの握り写真: Alpha(CC BY-SA 2.0)

旬

天然ものの旬は、冬に備えて身に養分を蓄える晩秋から初冬。夏のウナギは味が落ちる。いま出回るウナギはほぼすべて養殖。

旬 出回る時期

「江戸前」は、ウナギの言葉だった

東京寿司の世界でおなじみの「江戸前」は、もとはウナギの言葉でした。大川(隅田川)や江戸川、荒川の河口の干潟でとれるウナギが「江戸前」。江戸時代の後期にはそれだけでは足りず、利根川や手賀沼のウナギも江戸の町で食べられていて、こちらは「旅ウナギ」と呼ばれた。旅ウナギに対しての江戸前、というわけです。江戸湾の干拓でウナギがたくさんとれ、蒲焼が大流行して『江戸前大蒲焼番付』という本まで出ました。
「蒲焼」の名は、蒲の穂から。室町時代の蒲焼は、ウナギを裂かずに長いまま竹串を通して焼いたもので、その形と色が蒲の穂に似ていました。江戸時代に入ってウナギを開いて焼くようになると、もう蒲の穂には似ても似つかない。それでも名前だけは蒲焼のまま残りました。焼くと皮が樺の木の皮のような色になるから「樺焼」、においがすぐ伝わるから「香疾(かばやき)」と、別の字を当てる説まであります。

江戸前の寿司屋は、ウナギを握らない

江戸前の寿司屋は、ウナギを握りませんでした。都心で修業した寿司職人に聞いて回っても、握った覚えのある人はいない。いまでも江戸前の握りにウナギと聞くと眉をひそめる人がいます。寿司屋がウナギを使い始めたのは、住宅地が郊外へ広がり、寿司屋がウナギも出すようになってから、というのが職人たちの見方です。
理由はもうひとつ。生きたウナギを割いて焼くのは、衛生管理を考えると、生ものを扱う寿司屋には難しい。だから寿司屋のウナギは、加工品か、よそで焼いてもらった蒲焼をタネにするしかありません。宮崎県日南市の、蒸さずに強火で焼く地焼きの蒲焼を握ってみると、やや甘いタレがシャリとよく合う一貫になりました。
九州九州では話が逆です。寿司屋に入れば必ずウナギの握りがある。佐世保の老舗に聞くと、ウナギを置かない店はまずない、という答えでした。
タレを塗らない白焼きも握りになります。関東風に背開きして炭火で焼き、20分ほど蒸して、もう一度軽く焼いたもの。これにワサビと醤油。握る前にいちいち炙るのは手間ですが、その温かさがごちそうです。

穴子との違いは、麦わらの香り

ウナギの蒲焼(うな重)
ウナギの蒲焼(うな重)写真: Syohei Arai(CC BY-SA 3.0)
穴子とどこが違うのか。ウナギは深い海で生まれ、日本の海辺にたどり着いて川を上る魚。江戸前の寿司屋では、穴子は煮て握る。ウナギは焼いてタレ。そして香り。ウナギにあって穴子にないのは、かすかな麦わらのような匂いです。これを「臭」ではなく「香」と感じさせるように焼くのが、腕の見せどころ。
ウナギが高くなって、蒲焼に似せた代わりの品もいろいろ作られてきました。魚のすり身の練り物、ナマズの仲間の肉、豚ばら肉やサケの腹身の蒲焼。なかでも食感がいちばん近いのが、ウナギの近い仲間の穴子です。
回転寿司で並べて比べると、値段の差がよく分かります。くら寿司(一皿110円からの店)では「特大切りうなぎ(一貫)」も「特大切り 活〆穴子(一貫)」も270円。はま寿司では「炙りうなぎ」が税込176円、「煮あなご」が税込132円です(2026年9月29日確認)。

背から裂くか、腹から裂くか

関東は背開きで頭を落とし、白焼きにしてから蒸して、タレをつけて本焼き。関西は腹開きで頭をつけたまま、蒸さずにじっくり焼く地焼き。名古屋も腹開き、九州は背開きで蒸さずに焼く。ところが、江戸時代の末に書かれた『守貞謾稿』を開くと、京阪は背から、江戸は腹から裂く、と逆のことが書いてあります。
大阪関西では頭をつけたまま焼いてから切り落とすので、頭だけがまとめて安く売られています。これが「半助」。豆腐と煮て半助豆腐にすると、濃い出汁が出る。頭を落としてから蒸して焼く関東では、頭はそもそも出回りません。
大阪大阪では鰻丼を「まむし」と呼びます。『守貞謾稿』には、京阪では「まぶし」、江戸では「どんぶり」とある。この「まぶし」がなまって「まむし」。大阪の鰻丼は、タレを混ぜたご飯の間に蒲焼をはさみ、上からまたご飯をのせるので、上から見ても蒲焼が見えません。ご飯とまぶして食べるから「まぶし」なのです。
愛知名古屋のひつまぶしは、蒲焼を5〜8mmほどの細切りにして、お櫃のご飯にのせたもの。茶碗に取り分けて、薬味をのせたり、お茶や出汁をかけて茶漬けにしたりして食べます。

源内の張り紙と、冬の旬

土用の丑の日のウナギは、平賀源内が考えたという話がいちばん有名です。売れない鰻屋に「本日丑の日」と書いて貼るよう勧めたら大繁盛した、という筋書き。ところが、この源内説は出どころが分かっていません。文政5年(1822)ごろの『明和誌』には、土用の丑にウナギを食べるのは安永・天明のころ(1772〜1788年)からの習わし、とあるだけで、源内の名は出てこない。丑の日に「う」の付くものを食べると夏負けしない、という言い伝えもあって、ウリや梅干し、うどんも食べられていました。
じつはウナギの旬は夏ではありません。天然ものがおいしいのは、冬に備えて身に養分を蓄える晩秋から初冬。夏のウナギは味が落ちます。
奈良時代の『万葉集』では「むなぎ」。大伴家持が、夏やせにいいからウナギを捕って食べなさい、と歌っています。夏にウナギで精をつける発想は、それほど古い。「うなぎ」の形が出てくるのは院政期のころで、「むなぎ」はいまも鳥取県の方言に残っています。

稚魚がいなければ、養殖もない

いま国内で食べられるウナギは、ほぼすべて養殖です。ただしその養殖は、川に上ってくる天然の稚魚、シラスウナギを捕まえて育てるもの。天然の稚魚がいなくなれば、養殖も続けられません。そのシラスウナギの国内の漁獲量は、ピークには200トンを超えていたのが、2013年には5.2トン。ニホンウナギは2013年に環境省の、2014年にIUCNのレッドリストで絶滅危惧種になりました。
うなぎの養殖は、平成27年(2015)6月から農林水産大臣の許可がなければ営めない仕事になりました。無許可で養殖すれば、3年以下の懲役か200万円以下の罰金。シラスウナギの池入れの量には上限が決められていて、令和7年(2025)12月からは、全長13cm以下の稚魚を輸出するのにも国の証明書が要ります。
卵から育てて次の世代まで産ませる完全養殖は、2010年に水産総合研究センターが世界で初めて成功させました。壁はコストで、人工のシラスウナギ1匹を育てるのに2016年には4万円以上かかっていたのが、2024年の水産庁の報告会では1800円ほどまで下がっています。
店に並ぶ蒲焼のウナギが、何ウナギかは分からない。2025年、国内で売られた蒲焼133点のDNAを調べたところ、約4割がアメリカウナギでした。中国産と書かれた82点では、半分以上がアメリカウナギで、ヨーロッパウナギも混じっていました。

うなり寿司と、家の握り

愛知いなり寿司をひっくり返して、切った蒲焼をのせたのが「うなり寿司」。うなぎといなりを合わせた名前です。いなり寿司の発祥の地のひとつ、愛知県豊川市でも、いなりの上にうなぎをのせる食べ方が考えられています。
家でウナギを握るなら、市販の蒲焼か白焼きを使います。ウナギの血には毒があるので、生では食べない。この毒はたんぱく質で、60℃で5分以上加熱すれば消えます。握る前に軽く炙って温かいうちに。白焼きならワサビと醤油で。

値段

回転寿司・街の寿司屋・高級店のおまかせを並べて比べる

回転寿司

  • くら寿司「特大切りうなぎ(一貫)」(一皿110円からの店)270円2026-09-29 時点
  • はま寿司「炙りうなぎ」(税込)176円2026-09-29 時点

大衆店

  • 芦屋 波沙鮓「うなぎ」にぎり1貫(税込。本体価格1,000円)1,100円2026-09-30 時点

『江戸前の旬』では

読者の感想によれば、7巻には鰻寿司が、36巻には慈姑(くわい)で鰻に似せた精進の「鰻もどき」が出てきます。

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