寿司のデータベース

品書き / 貝など

平貝

たいらがい/Pen shell (Tairagi)

標準和名はタイラギ。国内の食用二枚貝でいちばん大きくなる貝の、大きな貝柱を握ります。甘さの奥にある、かすかな渋みが持ち味。一大産地だった有明海では、漁が14季続けて休みになっています。

タイラギ(Atrina pectinata)の殻
タイラギ(Atrina pectinata)の殻写真: Naturalis Biodiversity Center(CC0)
平貝の炙り醤油の握り(立喰い寿司ABURI)
平貝の炙り醤油の握り(立喰い寿司ABURI)写真: RuinDig/Yuki Uchida(CC BY 4.0)

旬

旬は春。夏は貝柱がやせる。

旬 出回る時期

種類

タイラギ

別名 ズベガイ、タイラガイ

殻の表面がなめらかなタイプ。市場の「平貝」の多くはこれで、韓国などからの輸入も多い。

リシケタイラギ

別名 ケンガイ

殻に放射状の筋がはっきり入り、刺立つタイプ。瀬戸内海と有明海に多く、タイラギと区別せず流通する。

甘さの奥の、かすかな渋み

平貝の身上は、甘さの奥にある独特の渋み。ホタテにはない、このかすかな渋みこそが、平貝を高級な寿司ダネにしています。コリコリの歯ごたえに、シャリとの相性もいい。握りのなかで平貝がいちばん好き、という人がいるのも分かります。
表面をさっと炙ると化けます。強火で短時間あぶるだけで甘みが増し、貝らしい風味も強くなる。渋みはそのままに、全体の旨みが一段上がります。あぶった直後の香りも格別です。
関東で食べるのは貝柱だけ。国内の食用二枚貝でいちばん大きくなる貝の、大きな殻にひとつきりの貝柱です。高くなるのも無理はない。この大きな貝柱は、前後にあった2つのうち後ろのものが真ん中へ移って育ったもの。とがったほうには、小さな前の貝柱がちゃんと残っています。

寿司屋泣かせの値付け

町の寿司屋にとって、平貝は値付けの難しいタネです。ふだんは1個から2貫分ほどの貝柱で、仕入れは300円くらい。しかもあまり注文が入らないので、安くても1貫400円ほどになる。甘いホタテ、苦みと旨みの青柳と並べられると、「それほどにうまいか」と首をかしげる客も多い。
市場では、国産より韓国などからの輸入ものをよく見かけます。国内の産地は三河湾、岡山県、香川県など。殻つきで1個400〜600円と、貝柱を主に食べる二枚貝としては非常に高い。

有明海の潜水漁と、14季の休漁

佐賀有明海では、タイラギ漁が14季続けて休漁です。2025年秋の調査では、佐賀と福岡の計113地点で成貝がひとつも見つかりませんでした。底質の悪化や貧酸素、ナルトビエイの食害が主な原因とみられています。明るい話もひとつ。稚貝は佐賀で63個、福岡で59個と、前年の各3個から増えました。
佐賀漁は、ヘルメット式の潜水器で行います。潜り手、船頭、綱引き(貝むき)と最低3人がかり。冬の朝、太良町の漁港から船が一斉に出ていく光景は、有明海の冬の風物詩でした。
九州九州では、貝柱のほかも食べます。ヒモや小さいほうの貝柱、足をまとめて「ビラ」と呼び、生食用として売っている。すり鉢で塩を加えてかき混ぜ、ぬめりをしっかり取るのがコツで、ここを手抜きすると生臭い。貝柱に負けない味で、歯ごたえもいい。
佐賀有明海の太良町では、ビラを粕漬けにした加工品も作られます。福岡県には、貝柱をみりん粕に漬けた「筑紫漬け」があります。

不知火、政宗の膳、ババトリガイ

熊本景行天皇が八代海を渡ったとき、不知火の明かりのおかげで無事に上陸できた。その不知火の正体は、旧暦8月1日の大潮の夜、干潟でタイラギをとる漁のかがり火だった。そんな話が伝わっています。
寛永12年(1635)正月、伊達政宗が将軍家光をもてなした膳の御肴に「たいらき小串」が出ています。串に刺した平貝です。同じ膳には、ミルクイの吸物も並びました。
名前はそのまま、大きくて平らな貝だから。標準和名の「タイラギ」は有明海あたりの呼び名から取ったもので、関東をはじめ広い地域では「たいらがい」と呼ぶほうが多い。寿司屋の品書きも「平貝」です。
鳥取変わった呼び名もあります。鳥取県境港では「ババトリガイ」。昔、子どもが外で用を足したとき、この貝殻でつまんで便所に捨てたから、という身もふたもない由来です。

泥に錨を打つ貝

とがったほうを泥に突き刺して立ち、そこから無数の糸を出して泥に錨を打つようにとどまっています。
リシケタイラギ有明海のタイラギには、殻に刺が並ぶものと、つるりとしたものがあり、前者を「ケンガイ」、後者を「ズベガイ」と呼び分けます。1990年代には2種に分け直され、筋がはっきりして刺立つほうがリシケタイラギになりました。市場では区別せず、味も値段も変わりません。

台所の平貝

家で刺身にするなら、むき身にして貝柱の筋とまわりの皮膜を取り、刺身に切るだけ。表面を強火でさっと炙る「焼き切り」にすれば、甘みと香りがぐっと立ちます。
熱を通すと固く締まる貝なので、焼くなら強火で短時間が鉄則。振り塩をしてさっと焼けば酒の肴に。酒とみりんを半々にして少し煮詰めたたれを、7分通り焼けたところで塗りながら仕上げる「つけ焼き」もうまい。天ぷらも、芯がまだ生くらいで引き上げると非常にうまい。
ビラが手に入ったら、炊き込みご飯に。下ごしらえは刺身と同じで、上品ななかに貝らしい旨みが出ます。

旬のはなし

旬は春。夏になると貝柱がやせてきます。

値段

回転寿司・街の寿司屋・高級店のおまかせを並べて比べる

回転寿司

  • くら寿司「大粒たいら貝(一貫)」(一皿110円からの店)270円2026-09-25 時点

大衆店

  • 町の寿司屋の平貝(2005年の記事)安くて1貫400円くらい
  • 梅丘寿司の美登利「たいら貝(季節商品)」(税込。貫数の記載なし。一部店舗は価格が異なる場合あり)330円2026-09-29 時点

市場

  • 殻つきのタイラギ1個(年の記載なし)400円〜600円

『江戸前の旬』では

読者の感想によれば、70巻で弟子の和彦が挑むのは、平貝に負けない帆立貝の寿司。平貝は、越えるべき相手として出てきます。

土地の呼び名

呼び名土地種類・メモ
タイラガイ関東の市場・寿司屋
チャーラギ有明海周辺
タチガイ(立貝)熊本県熊本市
ホタテガイ熊本県天草郡苓北町富岡
ハコトリガイ/ババトリガイ鳥取県境港市
ビラ佐賀県、長崎県貝柱を除いたヒモや足
ケンガイ有明海リシケタイラギ
ズベガイ有明海タイラギ

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