和歌山県
寿司につける醤油は、紀州の湯浅の味噌桶から生まれたとされます。黒潮にもまれた熊野灘の魚、箕島のタチウオ。熊野のめはり寿司、紀の川の柿の葉寿司と、郷土の寿司の多い土地です。
湯浅は醤油のふるさと
湯浅町は「金山寺味噌」の発祥の地です。13世紀の初め、由良の興国寺の高僧が、中国で覚えた味噌の作り方を人々に伝えた。この味噌を作る途中で見つかったのが、醤油です。もとは味噌桶の底にたまっていた赤褐色の汁で、旨みと香りが深く、塩気や甘みもあった。改良を重ねて、いまの湯浅醤油が生まれました。いまも昔ながらの手作りの製法が受け継がれています。
紀伊水道と熊野灘
紀伊水道に面した箕島漁港は、タチウオの水揚げ量が全国でも指折り。小魚を追って湾に入ってくるので、地元の釣り人もルアーで釣り上げる身近な魚です。秋には刺身、天ぷら、煮付けと家の食卓をにぎわせる。身の薄い「指2本」ほどのものでも、刻んで生のまま酢味噌で食べるとおいしい。太刀魚
熊野灘では、荒い黒潮にもまれて身の締まった魚が、マグロ、カツオ、アジ、サバと数多くとれます。太地町では古式捕鯨、那智勝浦町ではマグロのはえ縄漁と、昔ながらの漁がいまも続いています。マグロカツオアジサバ
冬においしくなるのが「イガミ」。ふつうブダイと呼ばれる磯の魚で、夏は独特の磯臭さがあるのに、冬は海藻を主に食べるので臭みが消えるとされます。田辺市には、正月に鯛ではなくイガミを尾頭つきで煮付けて食べる習わしがあります。
和歌山県での呼び名
| 呼び名 | 一般には | 出典での土地の書き方 |
|---|---|---|
| ダルマ/ダルマシビ | メバチ(メバチマグロ)全長1m以下の若魚 | 東京、埼玉、千葉、群馬、静岡、三重、和歌山県太地 |
| メッパ | メバチ(メバチマグロ) | 和歌山県新宮市・太地・白崎 |
| イトシビ | キハダ(キハダマグロ)大型は背鰭と尻鰭の先が糸状に伸びるため | 三重県熊野浦、和歌山県、宮崎県、高知県 |
| トンボ | ビンナガ(ビンチョウマグロ) | 神奈川県、東京都、三重県、和歌山県、高知県室戸 |
| ワカナゴ→ツバス→イナダ→ハマチ→メジロ→ブリ→オオイオ→ドタブリ | ブリドタブリは1m以上 | 和歌山県 |
| カレ | ヒラメ | 関西・四国・九州、大阪、和歌山県南部 |
| オオグチガレイ(大口鰈) | ヒラメ | 東北・関西、和歌山県串本、兵庫県明石市、広島県、徳島県、愛媛県宇和島、福岡県志賀島 |
| ホンガレイ | ヒラメ | 和歌山県田辺、徳島県 |
| シオ | カンパチ徳島では2kgくらいまでをシオ、2〜3kgをカンパチ、大型をアカハナ | 徳島県、三重県鳥羽市・尾鷲市、和歌山県那智勝浦町、高知県 |
| アカハナ(赤鼻) | カンパチ成魚・老成魚 | 三重県熊野市、和歌山県白浜、島根県、高知県 |
| ハゲ | カワハギ | 関西、和歌山県雑賀崎、高知県、愛媛県宇和島 |
| バクチウチ(博打打ち) | カワハギ | 和歌山県太地 |
| サゴシ | サゴシ(サゴチ)小型魚・若魚 | 和歌山県、島根県西部、徳島県阿南市、高知県宿毛市、鹿児島県種子島 |
| コセ | シマアジ幼魚 | 三重県西部・和歌山県、高知県宿毛市 |
| シロウオ | 白魚ハゼ科のシロウオとは別の魚 | 和歌山県新宮、大阪、伊勢湾 |
| ホンダイ(本鯛) | マダイ(真鯛)チダイ、キダイと区別するため | 新潟県佐渡、静岡県牧之原市、和歌山、大阪市場、兵庫県神戸・明石、広島 |
| キスゴ | キス瀬戸内海など西日本各地でも | 紀州各地(三重県東部・和歌山県)、徳島県海部郡宍喰 |
| ゼニコ | コハダ3〜6cmのもの。『紀州魚譜』(1929) | 和歌山県湯浅 |
| サイラ/サイリ | サンマ学名の種小名sairaもこの呼び名から | 大阪、三重県、和歌山県 |
| サエラ | サンマ | 和歌山県 |
| スズ | サヨリ | 和歌山県、徳島県海部郡海陽町、石川県、大阪府堺 |
| シラス(白魚) | 生しらすカタクチイワシの稚魚 | 東京都、神奈川県、富山県、和歌山県 |
| アカイカ(赤いか) | ケンサキイカ | 関東の市場・愛知県・新潟県・三重県・和歌山県・長崎県・鹿児島県 |
| ゼニヨミ | シャコ | 和歌山県和歌山市雑賀崎 |
| トリガイ | 青柳 | 愛媛県西条市、和歌山県和歌山市 |
和歌山県の食べ方・名産
- 太刀魚和歌山和歌山市の雑賀崎では、小ぶりのタチウオを三枚に下ろさず、ひれを落として骨ごと薄く切り落とし、酢に漬けて骨を軟らかくしてから食べる「背ごし」。田辺市など和歌山県南部では、三枚に下ろして端から切ったものをポン酢で。
- 柿の葉寿司奈良・和歌山同じ柿の葉寿司でも、奈良と和歌山では葉の色が違います。奈良の五條・吉野では、田植えが終わってひと息つく夏祭りのごちそうで、包むのは緑の鮮やかな渋柿の葉。紀の川流域、和歌山の伊都地方では秋祭りのごちそうで、きれいに紅葉した渋柿の葉で包む。季節が違えば、葉の色も違う。
- 柿の葉寿司奈良・和歌山運ばれてきた塩サバの話を、もう少し。熊野灘で浜塩をしたサバは、背負い籠に詰められて峠を越え、伯母峰峠の先の川上村まで二日ほどかけて届いた。浜塩は魚の腹に大量の塩を詰めて傷むのを遅らせる保存法で、着くころにはちょうどいい塩加減になっていたのです。はじめの柿の葉寿司は酢を使わず、発酵で酸味を出す生なれずし。塩サバを薄くそいでご飯を抱かせ、渋柿の葉で包んで、ひと月ほど寝かせました。いつからシャリに酢を合わせるようになったのかは、はっきりしていません。
- 柿の葉寿司和歌山和歌山の伊都地方は柿の産地で、九度山町は富有柿、かつらぎ町はたねなし柿で知られます。葉を取るのは、晴れて乾いた日。いつでも作れるように葉を塩漬けにして取っておき、客が来たら柿の葉寿司でもてなす家もありました。一口ずつ葉に包まれているので、葉を皿代わりに、箸を使わずに食べられます。
- 柿の葉寿司和歌山伊都地方の具は、熊野灘から紀の川の上流まで船で運ばれてきたサバ、カチエビの甘辛煮といった海のもの。そこへしいたけ、かまぼこ、油揚げ、卵と、手近にあるものを何でも使います。いまはシメサバのほか、タイやサーモン、熊野牛まで。県内の専門店の柿の葉寿司は、優良県産品「プレミア和歌山」にも登録されています。
- こけら寿司和歌山焼いてほぐした魚やしいたけ、にんじん、卵をシャリにのせ、木枠で押し固める。押し寿司や箱寿司の原型とも言われる寿司です。
- こけら寿司和歌山和歌山では、土地ごとに具が変わります。和歌山市の田ノ浦漁港のあたりでは、魚の供養と豊漁を祈る夏祭りに、ヒメジやエソのこけら寿司をふるまった。雑賀崎では底びき網でとれるエソのそぼろを使い、身を包丁でトントン叩いて柔らかくするので「トントンずし」とも呼びます。松江ではエビやタイのほぐし身とシャリを幾重にも重ね、那智勝浦町では黒豆や川エビ、高野豆腐を散らして、夏祭りのころはバショウの葉、秋祭りや正月は高菜の葉で段を仕切ります。硬くなったら、焼いて食べるのもまたおいしい。
- めはり寿司和歌山漁業と林業の盛んな和歌山の南部で、忙しい漁や山仕事の合間に手早く食べられる弁当として広まりました。昔は麦飯を、ソフトボールほどの大きさに握った。米が貴重な時代で、白米より麦を多く入れたのです。一つで一食分のおにぎりを、崩れないよう高菜でくるんだのが始まりと見られます。いまは食べやすく、小さく握るのが主流です。
- めはり寿司和歌山包む高菜は、冬から春先に収穫します。日当たりが悪くても育つので、平地の少ない紀南の山あいでさかんに作られてきました。新宮の高菜は葉が大きくやわらかい。紀州の高菜は、外側の葉から1枚ずつ摘んでいき、株は植えたままにして半年ほど収穫を続けます。この摘み方の葉で包むのが、めはり寿司の本流です。摘んだ葉は1〜2月に樽で塩漬けにする。だんだん茶色くなりますが、秋までもちます。
- めはり寿司和歌山中のご飯は、白いままでもシャリでも、好みでかまいません。醤油をつけた焼き魚を入れることもあり、那智勝浦町の下里では、川でとれるシラウオを甘辛く煮てご飯に混ぜ込み、高菜で包んでいました。いまは刻んで醤油で味をつけた高菜の軸、カツオ節、梅干し、シラスと具もいろいろ。食べるときは酢醤油が普通ですが、マヨネーズと醤油で食べる人もいます。
- めはり寿司和歌山新宮の「総本家めはりや」は1962年の創業で、めはり寿司を初めて商品にした店です。米は金芽米、高菜は和歌山県産の葉。店では作り置きをせず、注文を受けてから握ります。和歌山駅の近くにも店があります。
- めはり寿司和歌山かつては新宮駅の駅弁「めはり寿し」がとりわけ有名でした。ゴマを混ぜたシャリを小さめの俵形に握った、列車の中で食べやすい作り。売っていた会社が撤退し、2017年の時点で和歌山県内の駅で買えるのは、紀伊勝浦駅のさんま寿司との詰め合わせ「紀の国」と、和歌山駅のものだけになりました。関西国際空港では「紀州めはりずし」として売られ、和歌山県の推薦優良土産品にもなっています。
- めはり寿司和歌山家で作るなら、米2合に高菜の塩漬け5枚。高菜漬けは洗って水気をよく絞り、醤油大さじ1とみりん小さじ1/2を合わせた調味液をふって軽くもみ、しばらくなじませる。ご飯は普通に炊く。葉の軸はみじん切りに。葉を広げてご飯をのせ、刻んだ軸を芯に入れて、葉でくるみながら形を作ります。余った高菜漬けの芯は、細かく刻んで茶がゆにふりかけてもおいしい。
- さんまずし和歌山サンマは10月下旬から3月、熊野灘へと南下してきます。長い時間潮にもまれて身が締まり、脂もほどよく抜けるので、寿司にはうってつけ。和歌山県南部では、秋祭りや正月、船の進水祝いなどに「さんまずし」を作ってきました。
- さんまずし和歌山もとは、ご飯や魚を長くもたせる保存食として作られてきた寿司です。人が集まるときにふるまうごちそうで、とくに米の作れない山あいの村では、大事な栄養源でした。土地によっては、サンマを「さえら」「さいら」と呼びます。
- さんまずし和歌山和歌山県では、潮岬を境にさばき方が変わります。西牟婁郡は腹開き、東牟婁郡は背開き。硬く握ったさんまずしは鉄砲の筒のよう。だから「さえらの鉄砲」とも呼びます。
- さんまずし和歌山和歌山のさんまずしを家で作るなら、頭を付けたまま腹開きにしたサンマにべた塩をして、20分ほど置きます。塩を洗ったら、酢3・砂糖1の締め酢に20分ほど漬ける(好みで柚子をしぼる)。骨を抜いて薄皮をはがし、棒状にしたシャリにのせて、巻き簾で形を整えます。
- さんまずし和歌山小骨までていねいに抜いてあるので、醤油などはつけずにそのまま食べます。柚子やだいだいのしぼり酢を隠し味にすると、さっぱりする。大みそかに作って年が明けてから焼く「焼きさんまずし」もあり、家や店によっては、数か月かけて発酵させ、なれ寿司にすることもあります。
- さんまずし和歌山新宮市生まれの作家・佐藤春夫は、さんまずしが好物でした。「ふるさとで一番美味しいものは、一にめはり、二にサンマ」。詩「秋刀魚の歌」の作者でもあります。
和歌山県の寿司ばなし
このページの出典(29件)
- 近畿地方 和歌山県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-30 閲覧
- メバチマグロ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- キハダマグロ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- ビンナガマグロ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- ブリ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- ヒラメ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- カンパチ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- カワハギ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- サワラ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- シマアジ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- シラウオ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- マダイ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- シロギス|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- コノシロ(コハダ)|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- サンマ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- さんまずし 和歌山県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-25 閲覧
- サヨリ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- カタクチイワシ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- ケンサキイカ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- シャコ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- バカガイ(アオヤギ)|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- タチウオ|市場魚貝類図鑑(ぼうずコンニャク)2026-09-25 閲覧
- 柿の葉寿司 奈良県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-29 閲覧
- 柿の葉寿司 和歌山県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-29 閲覧
- 奈良・吉野の名物、柿の葉寿司|柿の葉寿司のゐざさ中谷本舗(ゐざさ中谷本舗)2026-10-09 閲覧
- こけら寿司 和歌山県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-30 閲覧
- めはりずし 和歌山県|うちの郷土料理(農林水産省)2026-09-29 閲覧
- めはりずし|Wikipedia(Wikipedia)2026-09-29 閲覧
- 総本家めはりや(公式)(総本家めはりや)2026-09-29 閲覧